つい先日のこと、北朝鮮にくわしい方と話していましたら、話題は自然とビルマ(ミャンマー)の変革に行き着いてしまいました。ごく最近に変化著しいミャンマー大改革は本物か? 北朝鮮とともにアジア最貧国で、自由のカケラもなかった国が、本当に変身するのか?
軍出身のテインセイン大統領が、はじめて外国メディアの取材に応じました。ダイジェストで記します。「ニューズウィーク」2月1日号。
記者「短期間に驚くべき変化が起きているが、この国を変えようと思った動機は?」
テインセイン「平和と安定、そして経済発展を実現したいという、人々の強い希望が根底にあるからだ。」
言い得て妙だと思います。国民のために平和と安定と経済発展を目指す。国家のトップとして、言い尽くされた目標のはずです。口先ではなく、実行しているのがすごい。20年近くも続いている欧米主導の経済制裁は確かにつらいでしょうが、どうもそれだけではないようです。
また彼は今後のステップについて「透明性を大切にしたい。世界の国々と友好関係を維持していきたい。」
やっと自由になったアウンサンスーチーが率いる野党 N D Lは、政党として登録された。そして4月1日の国会補欠選挙で議席48すべてを獲得するべく、活動を開始している。まだ解放されていない収監中の政治犯も、この日には釈放されるという。
少数民族の武装グループとの信頼関係構築も、テインセインは最重要課題にあげている。全国に11の武装勢力があるが、すでに最大派のカレン族勢力とは停戦合意を結んだ。ほかのすべてのグループとも対話を継続している。
テインセイン大統領は欧米諸国について「われわれに求めている条件が3点ある。政治犯の釈放、補欠選挙の実施、スーチーをはじめとする人々を政治プロセスに参加させることだ。これらの条件はすでに達成したと、わたしは確信している。欧米の側もやるべきことをやるべきだ。3つの条件を実行したのは、国の外から圧力を受けたからではない。この国のために必要だと思ったからやったのだ。欧米による経済制裁の目的はミャンマー政府を痛めつけることだったが、実際は国民の利益を損なった。」
また北朝鮮との核兵器開発での連携協力がウワサされているが「北朝鮮とは外交関係を結んでいるが、核開発や兵器の開発協力といった関係はない。そのような懸念は疑惑にすぎない。核は保有しておらず、北朝鮮との軍事協力もない。北朝鮮はわれわれの国を支援できる状況ではなく、われわれには核開発をはじめる財政手段がない。」
北朝鮮と国交のない日本からすれば、北と外交関係のあるミャンマーが奇異にうつるかもしれないが、そんなことはない。日本こそが少数派である。世界162カ国が北朝鮮と国交を結んでいる。米韓は当然だがない。
また大統領は「この国で民主主義が繁栄するための条件は、主に2つある。国内の平和と安定の実現と、経済発展だ。経済を発展させて国民の生活を向上させるため、必要な手段を実施している最中だ。…国民の貧困は、20年以上に及ぶ経済制裁のせいだ。この国で民主主義を繁栄させたければ、経済制裁を緩和して、民主主義に必要な活動を奨励するべきだ。」
北朝鮮もミャンマーの行きかたを熟考すべきであろう。核すなわち原子力だが、貧しい国が自国を守るために、保有し開発し続けることには無理がある。外国からは危険な敵とみなされ、疲弊し尽くすしかない。国民は食に窮してどん底に堕ち、数え切れないひとたちが餓死していく。そのような国家がいつまでも存続できるはずがない。
李相哲氏はたいへん危険な状態にある現在の北朝鮮食糧事情について、次のように記しておられる。金正恩政権を「維持するには、差し迫った食糧事情を何とかするしかないが、外からの援助を受けるには、その代償として、核廃絶に向けた態度表明を含む、責任ある態度を、国際社会から要求されるのは逸れない」(雑誌「諸君!」2月臨時増刊号 北朝鮮特集)
国民を餓死させないという当面の課題も果たせないのであれば、北朝鮮の現体制は存在してはいけない。その能力も資格もない。差し迫ったいまが、ふつうの国に変わるための絶好のチャンスである。
しかし核を手放し自由化と開放に向かえば、きっと反乱を起こす国民の手で虐殺されるであろうと確信している金一族と一部特権階級であるならば、外国に移住すればよい。彼らを温かく迎える、おおらかな国は世界にいくらでもあるはずだ。しかし立つ鳥、あとを濁さずという。
4月1日のミャンマー補欠選挙、そしておそらく投票終了直後に実施される全政治犯の釈放。当日のテレビ報道がいまから楽しみだ。この日4月1日は絶対に、エイプリルフールであってはならない。なおこの連載次回は、アウンサンスーチーさんについて書こうと思っています。
<2012年2月8日>
軍出身のテインセイン大統領が、はじめて外国メディアの取材に応じました。ダイジェストで記します。「ニューズウィーク」2月1日号。
記者「短期間に驚くべき変化が起きているが、この国を変えようと思った動機は?」
テインセイン「平和と安定、そして経済発展を実現したいという、人々の強い希望が根底にあるからだ。」
言い得て妙だと思います。国民のために平和と安定と経済発展を目指す。国家のトップとして、言い尽くされた目標のはずです。口先ではなく、実行しているのがすごい。20年近くも続いている欧米主導の経済制裁は確かにつらいでしょうが、どうもそれだけではないようです。
また彼は今後のステップについて「透明性を大切にしたい。世界の国々と友好関係を維持していきたい。」
やっと自由になったアウンサンスーチーが率いる野党 N D Lは、政党として登録された。そして4月1日の国会補欠選挙で議席48すべてを獲得するべく、活動を開始している。まだ解放されていない収監中の政治犯も、この日には釈放されるという。
少数民族の武装グループとの信頼関係構築も、テインセインは最重要課題にあげている。全国に11の武装勢力があるが、すでに最大派のカレン族勢力とは停戦合意を結んだ。ほかのすべてのグループとも対話を継続している。
テインセイン大統領は欧米諸国について「われわれに求めている条件が3点ある。政治犯の釈放、補欠選挙の実施、スーチーをはじめとする人々を政治プロセスに参加させることだ。これらの条件はすでに達成したと、わたしは確信している。欧米の側もやるべきことをやるべきだ。3つの条件を実行したのは、国の外から圧力を受けたからではない。この国のために必要だと思ったからやったのだ。欧米による経済制裁の目的はミャンマー政府を痛めつけることだったが、実際は国民の利益を損なった。」
また北朝鮮との核兵器開発での連携協力がウワサされているが「北朝鮮とは外交関係を結んでいるが、核開発や兵器の開発協力といった関係はない。そのような懸念は疑惑にすぎない。核は保有しておらず、北朝鮮との軍事協力もない。北朝鮮はわれわれの国を支援できる状況ではなく、われわれには核開発をはじめる財政手段がない。」
北朝鮮と国交のない日本からすれば、北と外交関係のあるミャンマーが奇異にうつるかもしれないが、そんなことはない。日本こそが少数派である。世界162カ国が北朝鮮と国交を結んでいる。米韓は当然だがない。
また大統領は「この国で民主主義が繁栄するための条件は、主に2つある。国内の平和と安定の実現と、経済発展だ。経済を発展させて国民の生活を向上させるため、必要な手段を実施している最中だ。…国民の貧困は、20年以上に及ぶ経済制裁のせいだ。この国で民主主義を繁栄させたければ、経済制裁を緩和して、民主主義に必要な活動を奨励するべきだ。」
北朝鮮もミャンマーの行きかたを熟考すべきであろう。核すなわち原子力だが、貧しい国が自国を守るために、保有し開発し続けることには無理がある。外国からは危険な敵とみなされ、疲弊し尽くすしかない。国民は食に窮してどん底に堕ち、数え切れないひとたちが餓死していく。そのような国家がいつまでも存続できるはずがない。
李相哲氏はたいへん危険な状態にある現在の北朝鮮食糧事情について、次のように記しておられる。金正恩政権を「維持するには、差し迫った食糧事情を何とかするしかないが、外からの援助を受けるには、その代償として、核廃絶に向けた態度表明を含む、責任ある態度を、国際社会から要求されるのは逸れない」(雑誌「諸君!」2月臨時増刊号 北朝鮮特集)
国民を餓死させないという当面の課題も果たせないのであれば、北朝鮮の現体制は存在してはいけない。その能力も資格もない。差し迫ったいまが、ふつうの国に変わるための絶好のチャンスである。
しかし核を手放し自由化と開放に向かえば、きっと反乱を起こす国民の手で虐殺されるであろうと確信している金一族と一部特権階級であるならば、外国に移住すればよい。彼らを温かく迎える、おおらかな国は世界にいくらでもあるはずだ。しかし立つ鳥、あとを濁さずという。
4月1日のミャンマー補欠選挙、そしておそらく投票終了直後に実施される全政治犯の釈放。当日のテレビ報道がいまから楽しみだ。この日4月1日は絶対に、エイプリルフールであってはならない。なおこの連載次回は、アウンサンスーチーさんについて書こうと思っています。
<2012年2月8日>