ビルマ、すなわちミャンマーのいまの大改革は、テインセイン大統領とアウンサンスーチー女史、ふたりを中心に進んでいる。そのように思えます。しかし在野のスーチーは、これからどのような戦略を立てていくのでしょうか?
4月1日の連邦議会下院補選立候補に彼女は届け出た。スーチー率いる野党NLD(国民民主連盟)は全48議席獲得を目指しているが、彼女は立候補のために住民登録を貧民が多数住む村に移した。
NLDは1月下旬に党本部で選挙対策会議を開いた。48人の立候補者の住所地をどこに置くかを決めるためである。会議の席で「地図を広げて検討していたところ、スーチーさんは貧困が多いヤンゴン南部コムー地区郊外のワティンカ村を指定した」。そして党関係者が同村を訪れたところ、面識のないカレン族の60歳前後でふたり暮らしの姉妹が、「スーチーさんの住民登録はぜひわたしの家にしてください」と強く希望した。スーチーは選挙の前日夜に姉妹宅にはじめて泊り、4月1日はこの家から投票に向かう予定である。ワティンカ村での彼女の姿は、きっとテレビ映像で全世界に流れることでしょう。
彼女が少数民族と貧困層の問題を大切に考え、実行していることを象徴的する話題です。武装少数民族の問題についてスーチーは「少数民族側は私に和解仲介の役割を求めている」。政府が望めば仲介を実行すると彼女は先月話している。
ところでスーチーはテインセイン大統領について「私は大統領が本心から改革を求めていると信じている。ただ軍部が大きな権力を持つことを認める現行憲法の下では、大統領は国のトップであっても、最高権力者であるとは限らない。」
確かに、改革を進めるテインセインに敵するのは、スーチーたちのNLDよりも、もしかしたら軍部現政権内部の保守派かもしれない。テインセイン主導の改革は、ここにひとつの危惧を感じてしまいます。
また彼女は4月の補欠選挙について「48議席すべてを確保したとしても、600議席以上ある上下院の中ではわずかにすぎない。あらゆることを一度に実現することはできない。議会の中で徐々にわれわれの活動を広げていく。」
国会の議席は4分の1を軍部が独占すると、憲法は定めている。憲法改正は重要な課題だが、新憲法の成立までには大きな障害がある。今回の補選はミャンマーにとって大きい意味を持つが、現実には小さな一歩にならざるを得ないのであろう。
テインセイン大統領についてスーチーは、昨年3月に「新政府が誕生し、テインセインがトップに立ったからこそ改革が進んでいる。彼は変化と改革の必要性を理解し、最善を尽くしている。政府内の改革派はほかにもいるが、彼なしに実現できたとは思わない。テインセインは軍から尊敬されている。大統領は現政権の中でもまれな、汚職に手を染めていない人物のひとり。彼だけでなく彼の家族も同様で、これはとても珍しいことだ。」
ミャンマーの軍部や政府高官たちには汚職が当然とされるなか、テインセインの清潔さはなぜであろう? 彼はミャンマー南西部のイラワジ川デルタ地帯で幼少年期をすごした。父は船着き場での荷役労働者であった。6歳上の兄は学業を断念し、弟のテインセインを中学そして高校へと進ませた。高校卒業後に国軍士官学校に入学したのは、学費が無料だったからである。
彼は汚職に染まらなかった。それは軍で生き抜き出世するための狡猾な処方であろうか? 貧民として生まれ育ってきた自らの過去からの清廉志向ではなかろうか。
テインセインの出身地、ジョンク村住民は「子どものころ、目立たず、また偉ぶることもなかった」。軍部トップだった独裁者タンシュエは、テインセインが「物静かで野心がなく、従順である」から後継に選んだともいわれている。
スーチーは、当然だが次の補選で当選する。しかし大統領が望む閣僚就任は辞退するはずだ。ミャンマー憲法では、閣僚の政党活動は禁止されている。スーチーの党NLDは4月から新スタートを切る。彼女は党建設に力をそそがねばならない。
そしてテインセインとスーチーは競うけれども連携し、新しいビルマ・ミャンマーを建設していくことでしょう。国民の自由と幸福のために。
・参考資料
「Newsweek」2月1日号
ブログ「孤帆の遠影碧空に尽き」ミャンマー関係記事
<2012年2月12日>
・追記3月14日
共同通信によると、アウンサンスーチーは立候補した4月1日の連邦議会補欠選挙で投票しないことが、3月13日に分かった。「 N L D によると、スーチーさんは、最大都市ヤンゴン南部のコームー選挙区から立候補するに当たり、投票する権利を得るため、ヤンゴンの自宅から同選挙区内の住民宅へ住民登録を移す予定だった。しかし、事務手続きが複雑なため、登録を取りやめることを決めた。」
「事務手続きが複雑」とは何でしょう。確かに住んでもいない他人宅に、了解を得ているとはいえ住民票を移す。3月31日のみ1泊予定。人権無視だったミャンマーでは、複雑なのかもしれません。もう少し詳しく知りたいと思います。いずれにしろ、あと半月ほどで投票です。
4月1日の連邦議会下院補選立候補に彼女は届け出た。スーチー率いる野党NLD(国民民主連盟)は全48議席獲得を目指しているが、彼女は立候補のために住民登録を貧民が多数住む村に移した。
NLDは1月下旬に党本部で選挙対策会議を開いた。48人の立候補者の住所地をどこに置くかを決めるためである。会議の席で「地図を広げて検討していたところ、スーチーさんは貧困が多いヤンゴン南部コムー地区郊外のワティンカ村を指定した」。そして党関係者が同村を訪れたところ、面識のないカレン族の60歳前後でふたり暮らしの姉妹が、「スーチーさんの住民登録はぜひわたしの家にしてください」と強く希望した。スーチーは選挙の前日夜に姉妹宅にはじめて泊り、4月1日はこの家から投票に向かう予定である。ワティンカ村での彼女の姿は、きっとテレビ映像で全世界に流れることでしょう。
彼女が少数民族と貧困層の問題を大切に考え、実行していることを象徴的する話題です。武装少数民族の問題についてスーチーは「少数民族側は私に和解仲介の役割を求めている」。政府が望めば仲介を実行すると彼女は先月話している。
ところでスーチーはテインセイン大統領について「私は大統領が本心から改革を求めていると信じている。ただ軍部が大きな権力を持つことを認める現行憲法の下では、大統領は国のトップであっても、最高権力者であるとは限らない。」
確かに、改革を進めるテインセインに敵するのは、スーチーたちのNLDよりも、もしかしたら軍部現政権内部の保守派かもしれない。テインセイン主導の改革は、ここにひとつの危惧を感じてしまいます。
また彼女は4月の補欠選挙について「48議席すべてを確保したとしても、600議席以上ある上下院の中ではわずかにすぎない。あらゆることを一度に実現することはできない。議会の中で徐々にわれわれの活動を広げていく。」
国会の議席は4分の1を軍部が独占すると、憲法は定めている。憲法改正は重要な課題だが、新憲法の成立までには大きな障害がある。今回の補選はミャンマーにとって大きい意味を持つが、現実には小さな一歩にならざるを得ないのであろう。
テインセイン大統領についてスーチーは、昨年3月に「新政府が誕生し、テインセインがトップに立ったからこそ改革が進んでいる。彼は変化と改革の必要性を理解し、最善を尽くしている。政府内の改革派はほかにもいるが、彼なしに実現できたとは思わない。テインセインは軍から尊敬されている。大統領は現政権の中でもまれな、汚職に手を染めていない人物のひとり。彼だけでなく彼の家族も同様で、これはとても珍しいことだ。」
ミャンマーの軍部や政府高官たちには汚職が当然とされるなか、テインセインの清潔さはなぜであろう? 彼はミャンマー南西部のイラワジ川デルタ地帯で幼少年期をすごした。父は船着き場での荷役労働者であった。6歳上の兄は学業を断念し、弟のテインセインを中学そして高校へと進ませた。高校卒業後に国軍士官学校に入学したのは、学費が無料だったからである。
彼は汚職に染まらなかった。それは軍で生き抜き出世するための狡猾な処方であろうか? 貧民として生まれ育ってきた自らの過去からの清廉志向ではなかろうか。
テインセインの出身地、ジョンク村住民は「子どものころ、目立たず、また偉ぶることもなかった」。軍部トップだった独裁者タンシュエは、テインセインが「物静かで野心がなく、従順である」から後継に選んだともいわれている。
スーチーは、当然だが次の補選で当選する。しかし大統領が望む閣僚就任は辞退するはずだ。ミャンマー憲法では、閣僚の政党活動は禁止されている。スーチーの党NLDは4月から新スタートを切る。彼女は党建設に力をそそがねばならない。
そしてテインセインとスーチーは競うけれども連携し、新しいビルマ・ミャンマーを建設していくことでしょう。国民の自由と幸福のために。
・参考資料
「Newsweek」2月1日号
ブログ「孤帆の遠影碧空に尽き」ミャンマー関係記事
<2012年2月12日>
・追記3月14日
共同通信によると、アウンサンスーチーは立候補した4月1日の連邦議会補欠選挙で投票しないことが、3月13日に分かった。「 N L D によると、スーチーさんは、最大都市ヤンゴン南部のコームー選挙区から立候補するに当たり、投票する権利を得るため、ヤンゴンの自宅から同選挙区内の住民宅へ住民登録を移す予定だった。しかし、事務手続きが複雑なため、登録を取りやめることを決めた。」
「事務手続きが複雑」とは何でしょう。確かに住んでもいない他人宅に、了解を得ているとはいえ住民票を移す。3月31日のみ1泊予定。人権無視だったミャンマーでは、複雑なのかもしれません。もう少し詳しく知りたいと思います。いずれにしろ、あと半月ほどで投票です。