あんたはすごい! 水本爽涼
第六十七回
木枯らしが吹き始めたのは丁度、この頃だった。流石(さすが)に背広のみでは肌寒く、コートを羽織ることにしていた。
「あら! いらっしゃい。お見限りねぇ~~」
多毛(たげ)本舗の新製品『団子っ娘』に端を発した俄か景気で多忙となり、久しく行けていなかったみかんへ寄った。ママは珍しく奥からは現れず、私がドアを開けた時は、すでにカウンター前に立っていた。私は一人で来た時のいつものワンパターンでカウンターの決まりきった指定席へ腰を下ろした。無論これは、私が勝手に指定席と思っているだけであって、みかんが決めてくれたものではない。ボックスには他の客が二人いた。店内は賑やかなカラオケが流れていた。その客の一人が有名な演歌曲を熱唱していた。決して上手い…とは云えないが、下手なのか? と聴けば、そうでもない。まあ、当たり障りのない並だな…と思いつつ、ママの顔をチラッと見た。幸いこの日も顎髭(あごひげ)の剃り残しは認められず、私はホッとした。早希ちゃんは二人の客に付いてボックスにいた。
「ママ、いつもの…」
「はい…」
ママはこの日も慣れた手つきでダブルの水割りを作り始めた。香ばしい焼きスルメの匂いがした。今日のつまみは、これか…と思った。日本酒に合いそうなのだが、マヨネーズを絡めると、妙なことに水割りには合った。

第六十七回
木枯らしが吹き始めたのは丁度、この頃だった。流石(さすが)に背広のみでは肌寒く、コートを羽織ることにしていた。
「あら! いらっしゃい。お見限りねぇ~~」
多毛(たげ)本舗の新製品『団子っ娘』に端を発した俄か景気で多忙となり、久しく行けていなかったみかんへ寄った。ママは珍しく奥からは現れず、私がドアを開けた時は、すでにカウンター前に立っていた。私は一人で来た時のいつものワンパターンでカウンターの決まりきった指定席へ腰を下ろした。無論これは、私が勝手に指定席と思っているだけであって、みかんが決めてくれたものではない。ボックスには他の客が二人いた。店内は賑やかなカラオケが流れていた。その客の一人が有名な演歌曲を熱唱していた。決して上手い…とは云えないが、下手なのか? と聴けば、そうでもない。まあ、当たり障りのない並だな…と思いつつ、ママの顔をチラッと見た。幸いこの日も顎髭(あごひげ)の剃り残しは認められず、私はホッとした。早希ちゃんは二人の客に付いてボックスにいた。
「ママ、いつもの…」
「はい…」
ママはこの日も慣れた手つきでダブルの水割りを作り始めた。香ばしい焼きスルメの匂いがした。今日のつまみは、これか…と思った。日本酒に合いそうなのだが、マヨネーズを絡めると、妙なことに水割りには合った。