水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第九十回)

2010年09月24日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第九十回
「それで、二つの玉が相互にコンタクトを取りあっている目的というのは?」
「早い話、小玉が大玉に報告をしておるのです。分かりやすく云えば、そうなりますな」
「報告ですか…。すると、それを受けた大玉は、また次の指示を小玉に出すとか?」
「御意(ぎょい)!」
 沼澤氏は古い時代言葉で答えた。
「えっ? なんです?」
「仰せのとおり、ということです」
「そうですか…。で、私は今後、どうしておればいいんでしょう? 不吉(ふきつ)でないからいいものの、いつ幸運が起こるか分からないというのもねえ…。どうも落ち着きませんし…」
「はあ…、過去にもそうおっしゃった方はおられました。まあ、少しずつお慣れになりましたが…」
「その方は、今?」
「外国に住んでおられます。巨万の富を得られて…」
「ウワ~! すごいですねえ」
「何をおっしゃる。こんなことを申しちゃなんだが、あんたはすごい! お方だ…。今後、世界を動かす一人になるに違いない…と、まあ、これは以前にも申しましたが。私は飽くまでも、玉の意志を伝えておるだけですから…」
「満ちゃん、すごいじゃない~!」
 ママが称賛する声も、なぜか虚(むな)しく私の耳には聞こえていた。私は、今の現実が、そら恐ろしくなっていた。普通なら素晴らしく思えるが話が、逆に夢ならいいが…と思えてきていた。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣③》第一回

2010年09月24日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣③》第一
 どのような判断が長谷川の竹刀を打ち込ませるのか…と、鴨下は眼を凝らしていた。所謂(いわゆる)、左馬介の隙を長谷川がどういった機会に捉えるのか…ということである。腕前が今一の鴨下は、既に自分が剣客には不向きだということを悟っている。これだけは天性のもので、周囲の者が助力しようと如何にもならないのだ。では鴨下は何の為に堀川道場にいるのだ? ということになるが、鴨下にすれば、相応の腕前を身につけ今後に生かせれば、それで充分だと考えているから、そう深刻でもない。過去に、自分と同様の者が堀川門下にいたという事実を聞いたことのある鴨下だから、道場での日々も冷静でいられるのだ。今、こうして長谷川が座している左馬介の周囲を静かに回る姿を遠目にするにつけ、自分が何故、左馬介のような凄腕になれないのだ、爪から先も考えていなかった。無論、今後の剣筋に生かそう…という向上心はあったのだが、長谷川が打ち込む機会を捉えるのがいつか…を観ることの方が重要な今の鴨下であった。
 長谷川はもう数度、左馬介の周囲を回っていた。それでも打ち込まない、いや、打ち込めないのは、やはり左馬介の有るようで無い隙の所為であった。いくら有利だとはいえ、隙がない者へ打ち込むのは自殺するようなもので無謀以外の何物でもない。


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