水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第七十八回)

2010年09月12日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第七十八回
 居間の側壁近くには、私の都合でそうなったのではないが、お誂(あつら)え向きの彫刻の美術像があり、そこへハンガーを掛けておくのが習慣となっていた。私の課長昇進を祝って、上司の鳥殻(とりがら)部長から戴いた銅像なのだが、大き過ぎてどうも置き場がなく苦慮していると、上手(うま)くしたもので居間の一角にスッポリと収納できるスペースを見出(みいだ)し、そこへ置いたのだ。丁度、像の一部の出っぱりにハンガーの掛け金が、これも上手い具合にピタリと合い、そこへ掛けておくのが私の常識となっていた。この日も当然のように掛けてあったのだが、私はバタついてハンガーを手に取り、背広上着のポケットを、まさぐった。すると、やはりあの時にポケットへ入れた紫水晶(アメジスト)の小玉が出てきた。どこへやったとか、置いたり出したことが一切ないのだから、それは当然なのだが、そのガラス玉状の小玉は紫がかった透明色で、これといった何の変哲もない、ただの水晶玉として私の目の前に存在した。上、右、斜め、左、下と透かして見たが。やはり、ただの石であった。もし、私の推理通りに、みかんの酒棚に置かれた玉に呼応して、この玉が異様な光を放っていたとすれば、これはもう、科学を超越した大ごとなのである。よし! この次、みかんへ行き、酒棚の玉が異様な光を帯びて渦巻いた時に、この小玉がどうなるかだ…と、私は確認してみることにした。加えて、その時点で私の身や周辺で何が起こるかも確認せねば…と思った。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第二十二回

2010年09月12日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第二十二
 無論、日中の腕(かいな)鍛えによる疲れで腕の感覚が鈍っている所為(せい)とも考えられるのだが、兎も角、昨夜の重さほどには感じず、幾らか捌き易いように左馬介には感じられた。中段に構え、いつもの残月剣の形(かた)を一通り描いてみた。太刀を幾らか捌き易い…と感じたように、形も昨夜よりは滑らかに描けた…と、左馬介には思えた。やはり、朝昼の石縄曳きの効果があったのだろうか…、これは続けねばならん、と考える左馬介であった。当然ながらそのことにより、課題であった崩れ上段から一回転して袈裟に斬り下ろす捌きの速さも増すことが期待されたからである。もう一度、形(かた)を描き終えた時、そのことを実感する左馬介であった。
 次の朝、目覚めると、妙に両の手の平が痛かった。よく見れば、水脹(ぶく)れで手の平の皮に豆が出来ている。それが片手に数ヶ所ずつ、よくもまあ、この状態で昨夜、形稽古が出来たものだ…と、我ながら呆れる左馬介であった。今日も曳くとなれば、何か策を講じねばならない。左馬介は両手を晒(さらし)で巻いて手袋代わりにして曳くことを考えていた。よく考えれば、これ以外に両手を保護しつつ曳くことは不可能なように思えた。そのことは朝餉の時、長谷川や鴨下には伏せておかねば…、と左馬介は思った。


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