水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第七十二回)

2010年09月06日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第七十二回
「ねえねえ、会社で何があったの?」
「えっ? ああ、さっきの続きね。会社の契約が俄かに入り出して、課の成績が急アップ!」
「あらまあ」
「その原因というのは、取引先の新製品が馬鹿売れしたからなんですが…」
「それって、このせいなのかしら?」
 ママは背の酒棚に飾られた水晶玉を指さした。
「ええ、まあ…。考えようによっては、これも偶然なんでしょうが、その逆も考えられる訳で…」
「なんか、もうひとつ煮えきらないわね」
 私は防戦一方になった。ママの疑問を完全否定し得る根拠がないのだった。そうかといって、玉の霊力のせいです…と断言できる根拠もないから、話に鋭く踏み込めなかった。
「ママの方は?」
「私? 私の方…。そうねえ…、そんなに変わんないけど、金離れのいいお客様が付いたことくらいかしら。まあまあね…」
 そう云うと、ママはニコリと笑った。女性ならいいが、女性ではないから、美形でも今ひとつ、グッと、そそられるものがない。もう一人の早希ちゃんは真逆で、そそるものはあるが、どうも癒(いや)されなかった。気持が少し昂(たかぶ)っても、カウンターぎみのパンチある言葉で萎(な)えた。他の客には結構、色っぽく話しかけるのだから、私には解(げ)せなかった。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第十六回

2010年09月06日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第十六
 構えは中段である。両手が柄(つか)を握り、刀が中段に構えられるのに呼応して、右足も静かに半歩前へ地を擦りながら出ていく。そして、ピタリ! と動きが封殺され、微動だにしない構えが続く。左馬介はほんの一瞬、両眼を閉ざし、また開く。それを境にして、中段に構えられた刀身は次第に上段へと昇っていく。上段へと構えが移行して後、すぐさま崩れ上段の構えへと動作は続く。竹刀の時とは刀身の重みによる動き加減が大層、違う…と、左馬介は感じつつ動きを進める。即ち、崩れ上段の万歳姿勢である。刀身を頭上に戴き、対峙する者を威嚇する姿である。そして、束の間の封殺された動作の停止がまたある。対峙する者を焦らせ、呼び込む間合いだ。竹刀と本身は、ここから動きの俊敏さが違うことを左馬介は小部屋で考えた。しかし、幾ら考えても、やはり身体で覚えなければならない。即ち、馴れ以外にはないという想いに至った左馬介だった。その動きが始まった。左手親指と人差し指の間に刀掛け状態で乗せられた刀身の棟が俊敏に左手を離れた。ここからは右の手の豪腕がものを云う。とはいえ、それは虚空で小さく一回転された刀身の柄へ左手が合わさる迄の瞬きほどの間合いなのだ。そして、両手が柄へ合流し、しっかと握られた柄は勢いを増して右上方より袈裟懸けに左下方へと斬り下ろされるのだ。


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