水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第八十九回)

2010年09月23日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第八十九回
「つまりは、あなたに霊力が宿ったから見えたのです。ほとんどの場合、強運の持ち主にしか霊力は宿りませんから、恐らくは玉があなたを選んだのでしょう」
「えっ! 棚の水晶玉には意志があるあるのですか?」
「ええ、ありますとも。現に私は、玉と霊力を通して会話することが可能なのですから…」
「そ、そうなんですか…。畏(おそ)れ入りました。あのう…それと、気になることがもう一つあるのですが、お訊ねしても宜しいですか?」
「はい、どうそ。何なりと…」
「私が考えておりましたのは、棚の大玉が異様な光を発して渦巻いた時、この小玉も連動して同じように光を発するのでしょうか?」
 私は背広の上着に入れた小玉を取り出して訊いた。
「なんだ、そのようなことでしたか…。塩山さん、あなたのお考え通り、二つの玉は相互に意志を伝え合っておるのですよ」
「それは本当ですかっ!」
 私の声は幾らか熱を帯びていた。
「そんなことって、あるんですかぁ~」
 今まで黙っていたママが、二人の話に加わった、早希ちゃんはママと正反対で、聞いてらんない…とばかりに、ボックス席の方へ移動して座り込んだ。そして、いつものように携帯を手にすると、何やら弄(いじく)りだした。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第三十三回

2010年09月23日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第三十三
左馬介は面防具を着けているから、横や後方は全く視界が閉ざされ、見えない。無論、左馬介は、そうしたことに委細構わず、の心境なのである。その証拠に、左馬介は両眼を閉ざしていた。そして右手は右太股(もも)の上へ置き、左手は床(ゆか)に置いた竹刀を軽く握りしめた姿勢で、静かに長谷川の動きを窺っていた。微かな長谷川の呼吸音、歩く時に生じる微細な空気の流れ、さらには殺気をも感じ取ろうと、身を凝らしているのだった。高みの見物の鴨下は、稽古場の片隅に陣取って、固唾を飲みつつ二人の様子を見守る。いつ長谷川が打ち込んだとしても不思議ではない。恰(あたか)もそれは、刺客や敵に不意を襲われる場合と酷似している。勿論、左馬介はそうした状況にも対応出来る残月剣の捌きを完成させたかったのである。通常に対峙した場合の捌きは、既に完成していた。一方、長谷川にも堀川の師範代としての意地がある。そう容易く打ち返されては面子が立たないのだ。だから、最も効果がある瞬間をひたすら狙いながら左馬介の周囲を歩き回っていた。左馬介は左馬介で長谷川の竹刀が動くよりも早く、素早い俊敏さで右下に置かれた竹刀を手にし、さらにはその竹刀で長谷川が打ち込んだ竹刀を打ち払わねばならないのだった。状況は正に逼迫の度合いを増し、最高潮に達していた。

                                                   残月剣② 完


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