水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第七十四回)

2010年09月08日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第七十四回
それに、私の目の錯覚なのかも知れないが、この前と同じように異様な光を発して渦巻く水晶玉と時を同じくして出たチューハイと烏賊(いか)さしの漬(づ)け…。これはいったい何を物語っているのだろう。いや、今回も恐らくママには見えていないに違いない。その証拠に、ママの態度はいつもと、ちっとも変っていなかった。私は、深く考えないでおこう…と、ママが出してくれたチューハイをグビッと流し込んだ。
「あらっ、ごめんなさい! お手元が出てなかったわねえ…」
 言葉は女性そのもので、姿もなかなかの美形なのだが、声が今一、思わせないのが惜しまれた。それに、時折りある剃り残し…、これも戴けなかったが、ママはママなりに、なりきっているつもりなんだろう…と思えた。陶器製の箸置きが出て、そこへ塗り箸が添えて出された。直(じか)に小皿の上へ箸を乗せない小さな和風の気配りが嬉しかった。ツマミを頬張り、チューハイを流し込むと、これはもう絶妙の極みである。私は、すっかり玉の光ったことなど忘れていた。丁度その頃、ボックス席で賑やかに繰り広げられていたカラオケショーが終演を迎えようとていた。三人はすっかり浮かれ果て、テンションはマックスまで高まっていた。対するこちらは、相変わらずのお通夜なカウンターだった。  

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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第十八回

2010年09月08日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第十八
とすれば、あとは腕力(かいなぢから)を鍛えるだけである。力がついた結果、真剣が軽く扱え形(かた)捌きが速くなれば、自ずと無駄な所作や力は削がれ、息の乱れも無くなる…という寸法だ。この発想に至れば今日はこれ迄か…と、左馬介は刀身を鞘(さや)へと納めた。
 次の日から左馬介の腕(かいな)鍛えの日々が始まった。手頃な場所と云えば無論、道場裏の川縁(べり)にある草叢(むら)である。両腕(かいな)に対して負荷を加え続けることにより腕を鍛える方法は様々で、普通程度の稽古ならば竹刀や木刀の素振りで事は足りる。これは既に充分過ぎるぐらい早朝の隠れ稽古でやってきた左馬介だ。それ以外の方法として考えついたのが三貫ばかりの石を縄で括り、手指の力で曳き摺りながら歩いて前進するというものである。詳述すれば、同じ程度の重さの石、二ヶを準備し、左右の腕、各々に縄を持ちながら同時に前進するという方法だ。加えて、腕立て屈伸も日々、行う。これは身体を伏せて可能な限り腕の屈伸を繰り返すというもので、次の練習の機会には徐々に回数を増やすという方法である。
 川堤を登り、川の瀬へとふたたび下る。三貫ばかりの石は浅瀬にゴツゴツと結構あるから探すほどのことはない。


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