水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第八十二回)

2010年09月16日 00時00分00秒 | #小説

  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第八十二回
「あらっ! 満君? 嫌だわぁ、誰かしら? って思ったわよ。…そうそう、この前はごめんなさいね。嫌な思い、させちゃって…」
 男にしては妙に女らしい云い回しが、声質以外は女以上だ…と、私を思わせた。
「いやあ…、別にどうも思ってませんよ。それより、今夜あたり押しかけようって思ってたんですが、混みますかねえ?」
「そうねえ…、たぶん、この前のようなことはないと思うわ。この前はさあ、お店始まって以来のお客様だったんだから」
「そうだったんですか」
「ええ…。でね、次の日から二日間、お店をバタン、キュ~よ。疲れちゃったからさあ~」
「お二人ですしねえ…」
「そうなのよお~、一見(いちげん)さんでも、来て下すったお客様を追い返す訳にもいかないじゃない」
「はあ、まあ、そうなりますかねえ…」
「だからさあ、あんな多くのお客様」
「何か、混むような訳とか、あったんですか?」
「それがさあ~、早希ちゃんも云ってたんだけど、私も全然、心当たりがないのよぉ~」
「怪(おか)しな話ですよねえ」
「そうなのよぉ~。もうすぐ、クリスマスだっていうのに、どこか変。怪談なんてさあ」
「確かに…。季節はずれで、余計に寒くなっちゃいますよねえ」
 私は冷静にママに合わせた。


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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第二十六回

2010年09月16日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第二十六
 夢の中の左馬介は幻妙斎が籠る妙義山の洞窟内にいた。しかも、いつかやったことがある岩から飛び下りる霞飛びの基本技をやっているのだった。幻妙斎は、あの時と同じように、遥か上の岩棚に座していて、左馬介にはその後ろ姿をみせるのみであった。その姿は、すぐに霞んで、左馬介は目覚めた。ほんの僅かな束の間に見た夢だったが、左馬介は何故、そのような夢を見たのか、が皆目、分からなかった。幻妙斎の身に何か異変が起こる前兆なのだろうか。左馬介は妙にそんな夢を見たことが心に蟠(わだかま)った。樋口が現れないのは寂しいが、幻妙斎が息災だということに他ならないから、それはそれでいい、と思える。左馬介は起き上がると道場の裏手へ急いだ。石縄などは盗られる心配がないから、放っておいても特段、構わない。手指の痛みも最初に曳き始めた日よりは随分、増しになっていた。あとは腕(かいな)鍛えを継続するのみである。気候も暑からず寒からずの秋の日和だから丁度いい。しかし、流石に曳いた後の夜稽古は身体に応(こた)え、左馬介は夜稽古を三日に一度とした。無論、石縄を曳いて腕(かいな)を鍛える試練は連日である。
 曳き始めて十日が過ぎ、そして半月が巡った。季節は秋一色となり、妙義山の紅葉も麓(ふもと)へと広がりを見せようとしていた。左馬介はこの頃、少し残月剣の技の切れを感じ始めていた。


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