水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第八十五回)

2010年09月19日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第八十五回
ただ、そんなことを云うために、今日、店に寄ったのではなかった。何としても、大玉と小玉だった。要は、大きい水晶玉の霊力と小さい玉の霊力が互いに意思疎通を行っているか…、これでも分かり辛いが、今風に云うなら、テレバシーの遣(や)り取りを行っているか、を確認すべく寄ったのだった。私は話が脇へ逸(そ)れるのを避けるため、話題転換することで先手を打った。
「それはそうと、沼澤さんはよく来るの?」
「まあ、ひと月に二、三回ってとこじゃない、ねえママ?」
「そうねえ~、そんなもんかしら…」
 オーダーしていないのに、ダブルの水割りが出てきた。偉く気が利くなあ…と思ったが、それについては何も触れなかった。
「それで沼澤さん、何か云ってましたか?」
「え~とね…、そうそう、満ちゃん、あなたのことを訊いてらしたわ」
「えっ? 何をです?」
「あなたの身の回りで何が起きているかをお知りになりたいみたい…」
「俺のことですか…。で、いつ来られたんですか?」
「二日前だったかしら…。ねえ、早希ちゃん」
「はい、そうです」
 いつの間にかボックスへ移動した早希ちゃんは、例の携帯を弄(いじく)りながら、そう云った。
「どういう訳か、会わないんだよなあ…」
「そりゃ仕方ないわよ。待ち合わせてる訳じゃないんだし…」
 早希ちゃんの一撃に、私は沈黙した。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第二十九回

2010年09月19日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第二十九
 確かに素早い所作は腕(かいな)の鍛錬で可能となったが、それと様々な状況で襲撃を受けた場合の対応力とは別問題なのだ。左馬介はどうすればいいか…と、煌々と照らし始めた月を愛でながら考えだした。どうするかとは当然、鍛錬の方法である。様々な襲撃の場面を予想すれば、枚挙に暇(いとま)がない。だが、左馬介が一人で鍛錬するならば、幾つかの大まかな想定しか出来ないのである。そうなると、やはり長谷川か鴨下に事情を話し、稽古の相手を引き受けて貰うしかないが…と、左馬介は巡った。襲撃を受ける、或いは不意に襲われた場合の対応力…これは取り敢えず相手の打ち込む剣を捌いて受け、その上で残月剣の形を描くという一連の所作である。これが、如何なる襲撃や不意討ちであったとしても可能とならなければ意味がないのだ。残月剣の形(かた)を相手に対して描く前に、バッサリと斬られては元も子もない、と云わねばならない。長谷川や鴨下に云えば一も二もなく了解して貰えるだろう。妙義山の折りもそうだったように、別に二人には断る理由がない。いや、それ以上に左馬介の悩みは二人にとっても心配事なのだ。というのも、今や、堀川の内情は三人になってしまっているという隠れた理由もあるからだった。樋口が時折り顔を見せはするが、稽古に加わらない客人身分の影番なのである。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする