水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第八十八回)

2010年09月22日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第八十八回
「今も云いましたように、会社は偉く盛況でしてね、申し分ないんですが…。私自身には…」
 ふと思い当たることがあり、私は言葉に詰まったが、また続けた。
「ありました! これは、今日、店へ寄ったこととも関連してるんですが…」
「ほう、何でしょう?」
「実はですね、そこの棚の玉なんですが…」
「玉がどうかしましたか?」
「この前なんですが、異様な光を帯びて渦巻いていたんですよ。ママや早希ちゃんには見えていないようでしたので、変に思われるのもなんですから、そのことは云わなかったんですが…」
「やはり、見えましたか…。塩山さん、あなたは、いつぞやも云いましたが、非常に稀有(けう)な運気をお持ちでおられる。さらに、霊力も感知しやすい体質をお持ちと見える…」
 沼澤氏の声が荘厳さを増した。
「だから、私だけに見えたんだと?」
「はい…。実は私にも霊力が備わっておるのです。実のところ、そのことに気づいて後、霊術師を名乗らせて戴いておるのですよ」
「えっ! ということは、沼澤さんにも玉が渦巻くのが見えるのですか?」
「ええ、時折り、渦巻きますよね。黄や緑の色を発して…」
「はい! そうなんです」
 私は興奮のあまり、声を荒げていた。傍(かたわ)らで二人の話を黙ってじっと聞くママや早希ちゃんは、私と沼澤氏を変な生き物を見るような怪訝(けげん)な眼差(まなざ)しで見ていた。だが、沼澤氏も見えると云ってくれたことで、私は少し心強くなった。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第三十二回

2010年09月22日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第三十二
「ああ、お前が床(ゆか)に座っているところへ、俺が打ち込めばいいんだったな、確か」
「そうです。横、後ろ、斜め、どこからでも結構ですから…」
 そう云うと左馬介は座して、面防具を着け始めた。長谷川も準備し始めた。竹刀を数度振り、目を閉ざして立ち、そして静かに床へ座した。昨日、話をして左馬介から概要は聞いているから、そうは心騒ぎする訳ではない。これが今朝の話であれば、恐らく動揺していたに違いないのだ。長谷川は、そう思っていた。片や、鴨下はどうなのかと云えば、ただ茫然と二人の様子を観ているに過ぎない。昨日、長谷川の小部屋へ行き、少しは話を聞きはしたが、具体的に細かな内容迄は訊かなかったのだ。というか、長谷川は多くは語らなかった。聞いたのは、左馬介が稽古相手になって貰いたいと云っていた…というだけの内容に過ぎなかった。だから今朝は、ただ観るに留めているのである。加えて考えれば、たとえ稽古相手を頼まれたとしても、鴨下の方が困ったに違いないのだ。剣の技量不足に関しては、誰よりも自分のことを分かっている鴨下であった。
 面防具を着けた左馬介が静かに座っている。その周囲を取り囲むように、長谷川が隙を狙いつつ静かに回り歩く。それも、足裏に神経を集中させ、物音を立てない回りようなのだ。


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