水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第八十六回)

2010年09月20日 00時00分00秒 | #小説

  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第八十六回
的(まと)を得ているだけに余計、口惜しかった。まるで子供だな、私は…と自戒した。気を取り直して酒棚を見ると、いつもの位置に水晶玉は飾られていた。なぜか安心して目線を落とす。今日のツマミは何だ? と楽しみにしていると、ママは小皿に乗せたクックドサラミのスライスを、そっとグラスに添えた。私は至極当然のように、それに付いた楊枝(ようじ)で
刺し、口へと運ぶ。そして左手で、背広上衣のポケットを、まさぐった。もちろん、ポケットに入れた小玉を取り出すためだった。ここまでの図は私の頭の中に描かれていた。右手はツマミながらグラスの酒を飲む。と、なると、小玉は左のポケットに入れておかなければ仕草が不自然に映る。それは二人がいると推量し得るからで、意識されることは避けねば…と、脳裡に描いて、左ポケットに入れてあった。そして、私が想い描いたように、その後も進行していった。私は徐(おもむろ)に口にしたグラスを置くと、小玉を握る手を目立たぬようカウンターの下へ移動して目線で追った。取り分け、何の変化もなかった。それはそれでいい…と思えた。問題は、大玉が異様な光を発して渦巻いた時、手に握る小玉が連動するのか? ということだった。それは、相互にテレパシー交信している…という謎の大ロマンにも繋(つな)がっていた。


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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第三十回

2010年09月20日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第三十
常に顔を突き合わせている左馬介とは仲間として繋がれているという、云わば連帯感のような想いが二人にはあった。これはお互いに持ち合わせる感情であり、道場が多くの門弟で賑わっていた頃には到底、起こり得ない感情であった。
 夕餉の膳が片づけられ、長谷川が小部屋へ戻ろうとしていた。
「あっ! 長谷川さん、少し宜しいですか?」
「ん? …なんだ?」
 長谷川は背中に声を受け、立ち止まって振り返った。鴨下は厨房で洗い物をしている。
「実は…、またお願いなんですが…」
「ほお、いつかの妙義山のようなことか?」
「はい、そうなんです。ただ、今回はお知恵を拝借するというのではなく、実際に剣のお相手をして貰いたいのです」
「おお、それはいいがな。…で、どうしろと云うんだ?」
「どうしろなどと…。ただ元立ちしている私に打ち込んで下されば、いいのです」
「なに? それではただの打込み稽古ではないか。容易いご用だ!」
「いえ、それが少し違うんです。私は座していますから、御自由にどこからでも打ち込んで戴きたいんですよ」


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