詳しく聞いているうちに、少しずつ小次郎は訳が分かってきた。どうも数日、めぼしいものを食べていないことによる体力の衰え・・と判断できた。小次郎も捨て猫だったから、身につまされた。
『そうでございましたか…』
小次郎は、いつの間にか敬語で話していた。
『いや、なに…。まあお恥ずかしいながらも、そのようなことで生き延びて参った次第…』
『この地には?』
『数日もいようか…と、思っております。いい句が出来ればすぐ発(た)つつもりでおりますが…』
『ごゆるりと…』
いつの間にか話す内容が高尚になっていた。
『随分と楽になりました。小一時間も、こうしておれば…』
そう言いながら股旅は身を崩し、元のように横たわった。
『お口に召すかどうかは分かりませんが、折々に食のものを運ばせていただきます』
『お気づかいなく…』
股旅は軽く頭を下げた。しばらく、あれやこれやと話していたが、話が途切れたので小次郎は生け垣から遠退(とおの)いた。
その後、小次郎がキャットフードの粒を少し運んだ以外は事もなく夕方となり、沙希代が手芸教室から帰ってきた。