水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<40>

2014年12月25日 00時00分00秒 | #小説

「ということは?」
『ええ、ドラの奴、ぺチ巡査の一件があってからは一度も顔を見せないんです。よくよく考えれば、巡査に驚かず逃げなかったのも、不思議といえば不思議なんですがね』
「それは、どういうことだい?」
『ええ、そのときは巡査じゃなく郵便配達のバイク音で逃げていったんですよ』
「それは妙な話だ」
 里山は首を捻(ひね)った。郵便配達のバイク音と巡査・・普通なら巡査だが…と思えたのである。
『長居をさせました。随分と夜も更けてきましたから、話は、この辺りで…』
「あっ! そうだな。じゃあ、策は考えとくよ。纏(まと)まったら家内がいないときにでも…」
『はい! 期待してます』
「ははは…まあ、当(あ)てにせず待っててくれ。それじゃ…」
 里山は闇に紛(まぎ)れ、キッチンから去った。
 そして数日が事もなく去った。里山から日々の会話はあったものの、ドラ対策の話は出ず、小次郎をやきもきさせた。幸い、ドラが姿を見せなかったから、小次郎は助かっていた。そして、その日も暮れようとしていた。
「ただいまぁ~」
 玄関戸が開き、里山が慌(あわ)ただしく帰ってきた。
「お帰りなさぁ~い。早いのねぇ~」
 沙希代がキッチンから早足で出てきた。里山としては、偉いご挨拶だな! と少しムカつく言葉だったが、長年そうだったから聞き流すしかなかった。


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