水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<23>

2014年12月08日 00時00分00秒 | #小説

『もう、すっかり具合いいそうですが…。数日はこちらにご滞在だと』
「先生と聞けば、ご丁重にもてなさないとな。里山の家の名折れになる」
『全国をお周りになっておられるそうですから…』
「まるで芭蕉だな…」
『股旅(またたび)と申されます』
 小次郎は少し厳(おごそ)かに言った。
「股旅…」
 何を思ったのか、里山は噴き出しかけて、思わず口を手で塞(ふさ)いだ。この言葉を聞けば、人間世界の時代劇では股旅物として使われ、各地を旅して渡り歩く博徒(ばくと)達が義理人情に生きる姿を連想し、片や、猫の好物とされるマタタビをも連想させる。里山は同時に二つをダブって思い浮かべ、笑えたのだ。
『妙な俳号とは僕も思ったんですがね』
「生け垣の下にお住まいとは…。今はいいが、夏冬はお辛(つら)いだろうに…」
 里山は敬語づかいになっていた。
『ええ、そう思うんですが、どうも野宿が性(しょう)に合っておられるご様子です』
「まあ、本人の自由なんだが…。そんなことより、先生は人間語を話されるのかい?」
『はい、話されます。僕も人間語を話す猫に出会ったのは、先生が初めてです』
「貴重な猫だなぁ~」
 里山は腕を組んで感心した。夜は深々と更けていった。


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