『失礼ながら、あの盗作まがいの作でございますか?』
小次郎は思わず訊(たず)ねていた。生け垣や・・の句では如何(いかが)なものか…と思えたからである。
『いやいやいや、アレではありません。肌寒(はだざむ)を 寝床(ねどこ)となせる …時近し でござるよ』
『いい句ですが、なんか物悲しいですね…』
『有名猫にならなければ、まあ、こんなものです』
『駅長とか、テレビCMに出たりとかの連中もいますが…』
『すべては運次第ですな、ははは…。私は、これだけのものです。では…』
股旅は腰を上げ、尻尾で軽く挨拶をすると生け垣から去っていった。小次郎はニャ~~! と別れの声で最後のひと鳴きをし、ただ、見送るだけだった。
月日は巡り、小次郎が里山に拾われて初めての冬がやってきた。猫の数ヶ月は人間の一年以上に匹敵する。小次郎は人間に換算すると、すでに中学生に近づいていた。里山家の大まかを調べ終えた小次郎は、日々、人間考察に明け暮れていた。人とは…という課題である。里山と沙希代の二人をまず知ろう…というものだ。里山家以外の人間は、その次の段階として考えていた。
これということもなく、里山は休日の昼下がり、暖炉前でウトウトしながら寛(くつろ)いでいた。いつの間に現れたのか、里山がふと気づくと、自分が座るソファーの長椅子の横に小次郎がいて、里山と同じように寛(くつろ)いでいた。沙希代は買物に出ていなかった。