「あれ? ほんとだ、ない…」
里山は左右をキョロキョロと見回した。
「でしょ! …あんなもの盗る人っている?」
「ああ…、まあ、いないだろうな」
「でしょ!」
小次郎は薄目を開けながら、でしょ! の好きな人だな…と、眠そうに思った。ご主人! 僕だよ、僕! と言いたいところだったが、沙希代がいる手前、人間語では話せないから聞くに留めた。そのうち、また本格的な眠気に襲われ、小次郎はスヤスヤと深い眠りに誘(いざな)われていった。
小次郎が目覚めたとき、外はすっかり暗くなっていた。
「おい! 風邪引くぞ」
声をかけたのは里山だった。
『あっ! もう夜ですか…。どうも…』
「そうそう、夕方さ、家内と話してたんだけどね…」
『水の缶ですか?』
「聞いてたのかい?」
『ええ、まあ…。聞いていたというか、聞こえてました。その話ならご安心を。事情で僕が移動しましたので』
「そうか…。だろうな。そうじゃないかとは薄々、思ってたんだ」
そのとき、家の奥から里山を呼ぶ大きな声がした。
「あなたぁ~~! 夕飯にしますからっ!」
いつまでも、なにをモタモタしてるんだ! とでも言いたげな怒り口調である。里山は警戒警報を発令して少し慌(あわ)てた。