『凄(すご)むんじゃないよ。素直に答えなさい!』
『凄んでなんか、いやしないぜ。もって生まれつきの性格だ、こちとら!』
『いや、それは本官が悪かった。しかし、迷惑をかけてるとは思わないのかい?』
『別に…。だいいち、被害届けでも出たのかい? おまわりさんよ!』
『そう、居丈高(いたけだか)に言いなさんな。被害届けは出てないが、苦情がな…』
『誰から?!』
『それは言えん。お前、言えば脅(おど)すんだろ?』
『そんなこと、しやしねえよ。してから来いってんだっ!』
与太猫のドラは大人しくなるどころか益々、凄みを増して強がった。ぺチ巡査もドラの剣幕(けんまく)には少々、手を焼いてるようだった。そのとき、いつもの郵便配達のバイク音が近づいてきた。それまで、大きな態度だったドラが豹変し、ビクついて立ち上がった。
『話の続きは、またなっ。あばよっ!』
言っている内容は格好よかったが、ドラの身体はビクついて震え、言い終わるやいなや、疾風(はやて)のように走り去った。存外だったトラの豹変(ひょうへん)ぶりは、小次郎を驚かせた。どうも他所者(よそもの)には弱いようだ…と、ドラへの攻め口を見つけた小次郎は、それだけで大満足だった。
『逃げて行っちまった…』
ぺチ巡査は年老いているせいかドラを追っかけることもなく、茫然(ぼうぜん)と見送った。