水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<30>

2014年12月15日 00時00分00秒 | #小説

 里山が出勤してしばらくすると、沙希代も家を出た。
「帰りに積もらなきゃいいけど…」
 そう言いながら玄関戸を施錠する沙希代の声が聞こえた。小次郎は聞かぬ態(てい)で目を閉じていた。それから数分後のことである。突然、猫の鳴き声が小さく響いてきた。小次郎は勘(かん)が鋭(するど)く、ドラが来たか…と、瞬時に判断した。さて、挨拶に出たものかが悩ましい…と小次郎は軍師よろしく、思案に暮れた。悩ましい…とは、囲碁プロの解説者が語る常套句(じょうとうく)である。次の一手が問題で迷うのだ。里山が囲碁番組をテレビで観るうちに、自然と小次郎も覚えたのである。軍師よろしく・・というのも、里山が観ていたテレビの影響である。さて、次の一手だが、この場合、①寝たまま見過ごす、②偶然外へ出た態で挨拶する、③警察猫のぺチを呼ぶ、④加勢する仲間(軍勢)を集め、戦う⑤その他の策を寝たまま考え続ける・・というものである。④は昨夜、観たテレビの影響が大きかった。①~⑤案のいづれにしろ、ドラとはこのまま付き合いがなくなるとは思えなかった。小次郎の知恵が試される時が近づいていた。まず④は自衛権の行使だが、戦闘行為となれば傷つくこともあり、明らかに憲法違反となる公算が大きいから即時に否決した。②は偶然、外へ出た・・というのが、見るからに不自然に思え、否決することにした。こんな雪が降る寒い朝に歩きまわる猫は少ないからだ。普通は冬籠りで炬燵(こたつ)で丸くなる・・が相場なのだ。①の見過ごすというのも、里山家で住んでいる以上、如何(いか)にも無責任に思え否決した。さて残るは、③と⑤案である。


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