その里山は先ほど勤めに出たから、帰りを待つしかないか…と、小次郎は目を閉じた。
どれほど眠っただろうか…。小次郎が目を開けると壁時計は1時過ぎを指していて、疾(と)うに昼は回っていた。どういう訳か、この日に限って余り腹が空かなかった・・ということもある。それでも日々の単調なくり返しは怖ろしいもので、知らないうちにディっシュの中の餌を齧(かじ)って食べていた。里山が出がけに多めに入れておいたものだ。朝、昼分で、多めに入れてあった。育ちざかりの小次郎は、ここしばらくの間に、ひと回り大きくなっていた。そのことは自分でも自覚できた。小次郎は庭へ出てみることにした。一応、ドラがいないか物置の軒(のき)下を確認しておこう…と思ったからである。
庭の足継ぎ石の下から外へ出ると、昨日、積もった雪はすでに融けていて、いつもの地肌が見えていた。とても枯山水とは言えない安っぽい造りの庭だが、それでも情緒だけは生意気にもあった。冬の日射しは弱く、傾きは速い。
小次郎が物置の軒下へ回るといつもの静けさで。幸い、ドラは来ていなかった。昨日のことで懲(こ)りたか…とは思えたが、油断はできない。しばらくは見回る必要がありそうだ…と小次郎は他国の侵略を敬語する海上保安庁的に考えた。
その後の日中は何ということもなく、平穏に推移し、夕方となった。最近、里山の帰りが沙希代のあとになる日が、とみに増えていた。小次郎は、ご主人が僕に対してマンネリに鳴ってこられたに違いない…と踏んでいた。媚(こ)びるのではないにしろ、もう少しニャゴらねば…と、小次郎は心ほ新(あら)たにした。