水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<45>

2014年12月30日 00時00分00秒 | #小説

 沙希代が現れたとき、小次郎は素早い身の熟(こな)しで物陰に隠れ、沙希代の視線から身を躱(かわ)していた。沙希代が去ったのを見届け、小次郎は物陰から里山の近くへ戻った。
「フゥ~、危ないとこだったよ。家内はこの話を全然、知らないからな」
『僕もジョギングで鍛(きた)えておいてよかったですよ。素早く逃げられましたから』
「猫もジョギングするんだ」
『そりゃ、猫だってやりますよ。僕の場合は家をひと周(まわ)りですが…』
「なんだ、その程度か」
『ご主人は人間だからそう言われますがね。猫にすりゃ、取り分け僕のような子猫にすりゃ、家をひと周りといえば皇居を一周するようなもんですよ。…これは、まあ少し大 袈裟(げさ)ですが…』
「悪い悪い。小次郎がつい猫だってことを忘れてたよ」
『そんなことは、どうでもいいんですが、このスイッチ板は上出来ですね』
「だろ?」
 里山は少し自慢たらしく、したり顔をした。小次郎にすれば、どうでもいいのである。与太猫のドラを近寄らせないか、あるいは万が一、来たとしても撃退出きればそれでいいのだった。だから、装置の出来不出来は関係なかった。
『これを、どうされるんです?』
「そうそう、それなんだが、これから配線をしようと思うんだが、食べてからだな…」
 里山は寝室の方を見ながら言った。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする