『おお! 一句、出来ましたぞ! … 生け垣や ああ生け垣や 生け垣や』
『… どこかで聞いたような…』
『… そういや、そんなのがありましたかな、ははは…』
股旅は優雅に笑った。先生! 盗作はいけません、とも言えず、小次郎も遅れて愛想(あいそ)笑いをした。
『じゃあ、僕はこれで…。ご主人達が起きる前に引き上げます』
小次郎は股旅が餌(えさ)を食べ終えるのを見届けると、そう言いながらペットディッシュを口に咥(くわ)えながら生け垣を抜けた。
外が白々と明け始めたのは、しばらくした後だった。小次郎は庭の足継ぎ石の下から家の中へと戻り、何食わぬ顔でキッチンのフロアへ身を横たえた。
「じゃあな。股旅先生に、よろしくな」
『はい! いってらっしゃい』
「ははは…そういう堅苦しいのは無しにしよう。そこは、ニャ~~でいいぜ!」
朝、慌ただしく里山が家を出ると、小次郎は生け垣へ股旅の様子を見に行った。股旅はすでに起きていて、身支度を整え小次郎を待っていた。
『先生! その身支度は?!』
人の目には猫の姿であって、昨日と何の変化もない。しかし、猫世界ではグルーミングとかの具合で微妙な身の変化が見えるのだった。
『ははは…なんのことはござらん、小次郎殿。句も出来たによって、旅立とうと存ずる…』
股旅は尻尾(しっぽ)を丸くして背筋を伸ばした身に巻き、斜(はす)に構えた姿勢で静かに言った。