「お前も、家(うち)にすっかり馴染(なじ)んだな…」
『そりゃ、馴染みますとも…。数ヶ月も経(た)ちましたから』
「どうも君達猫族と我々人間とは時間感覚が違うようだな」
『そりゃそうでしょ。僕達はご主人のように長生きは出来ませんから…』
「ああ、そりゃまあ、そうだ…」
里山は、つまらないところで合点して頷(うなず)いた。
『里山家の概要は分かったつもりですが、今一つ、家的に分からない点が…』
「なんだい?」
『お二人は、ずっとお二人なんですか? 他に、ご家族の方とか…』
以前から思っていた素朴な小次郎の疑問だった。その言葉を聞いた途端。突然、里山の表情が暗くなった。小次郎は拙(まず)いことを訊(たず)ねてしまったか…と、後悔(こうかい)した。
「ははは…。それはいろいろと事情があってな…」
しばらく時期が過ぎたあとから分かったことだが、里山夫婦は子供に恵まれなかったのである。
「つまらないことをお訊(き)きしました。申し訳ありません」
「いやいや…」
里山はすぐに否定したが、少し応(こた)えたようだった。座がすっかり、しめっぽくなった。小次郎は、僕がご夫妻を癒(いや)さないと…と、子供心に早熟(ませ)て思った。