水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<35>

2014年12月20日 00時00分00秒 | #小説

追っかけることもなく・・と言えば聞こえはいいが、要は追っかけられなかった・・ということだ。
『まあ、今日のところは仕方ありませんね。ひとまず、厄介(やっかい)者は退散しましたから、また何かあれば、お願いします』
『そうかい? じゃあ、これで帰るとするか』
 ぺチ巡査は人間がする敬礼の所作を尻尾を高く挙げて曲げることで表現し、里山家をゆったりと去っていった。
 小次郎はぺチ巡査が去ったあと、庭の足継ぎ石の下から家の中へと戻った。凍傷を起こすんじゃないか…と少し心配だった足先の冷えも、キッチンへ戻(もど)ると、すっかり回復して痒(かゆ)くなってきた。まあ、いい傾向だ…と思いながら水缶の水をぺチャぺチャとやった。そして、フロアへ腰を下ろすと、床暖房カーペットの温(あたた)かみが、やんわりと身体を包んだ。小次郎は小さな幸せ感を感じた。目を閉ざすと、眠気に襲われかけたが、不意にドラのニヒルな顔が浮かび、ハッ! と、目を開けた。そうだ! ドラの撃退法を考えねば…と、小次郎はテレビで観た軍師よろしく、策を練り始めた。
 腕力ではとても歯が立ちそうにないドラを里山家に近づけない策といえば、ドラの弱点を突くしかない。昨日の一件で、ドラは知らない人間に弱い・・ということが分かった。郵便配達のバイク音がしただけで飛ぶように逃げ去ったドラだ。この弱点を突かない手はない・・と思えた。だがそれには、人間の手がいる。ここは、里山に相談するしかないだろう…と小次郎は結論を出した。


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