水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (66)気になること

2019年12月01日 00時00分00秒 | #小説

 気になることがあれば楽しいことも楽しくなくなる。これには個人差があり、後(あと)からでもいいや…と軽く流せる[スルーできる]人と、気になり出したことは何が何でもやってしまわないと気が済まない人の二(ふた)通りがある。気になってやり始めたことを最後までやってしまう継続力とはまた別だが、孰(いず)れもにしろ、誰でも楽しい気分でいたい訳だから、気になることは少ないか無い方がいいに決まっている。気になることが一杯(いっぱい)あっても、全然、気にならない極楽トンボのお方は羨(うらや)ましい限りだ。^^
 それなりに名のある画家が指導する、とある絵画教室である。数人の生徒がキャンバスに絵を描いている。課題は、前方の皿の上に置かれた数本のバナナである。
「ほう! 抽象画ですかな?」
 バナナとは、とても言えない絵を見ながら、画家は口を開いた。
「いえ、写実画です…」
 生徒は自信ありげに返した。画家は、こりゃ、才能なしだ…とは思えたがそうとも言えず、軽く頷(うなず)いた。
「この大きな斑点(はんてん)は何ですかな?」
「ああ、これですか。これは皮の斑点です」
「斑点にしては、少し大きいようですが…」
「そ、そうですか?」
 画家はそれ以上、言わず、次の生徒の方へ歩いて通り過ぎた。画家に言われた生徒は気になり出した。気になることは気にならなくしないと気が済まない性分(しょうぶん)が災(わざわ)い? して、塗(ぬ)りたくった絵は、いつの間にか立派な写実の名画へと生まれ変わった。
 まあ、気になることを追求すれば、こんな瓢箪(ひょうたん)から駒(こま)・・という楽しいこともある訳だ。^^

                                


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