欲が満たされれば人は楽しい気分になる。これは誰しも言えることだが、欲を満たして楽しくない者は、正直なところ、余程(よほど)の欲張りかウスラ馬鹿だろう。まあ、この文章を読んで腹を立てる人は、その傾向があるかも知れない。^^ ただ、欲はその程度にもよる。意欲がない者はダメで、有り過ぎる強欲(ごうよく)者もダメだから程度が難(むずか)しい。
ここは、とある旅行社である。
「あの…もう少し何とかならないでしょうか?」
「お客様、そう申されますが、この額(がく)じゃ、この程度でございますよ」
「そこを、なんとかもう一声(ひとこえ)っ!」
「…仕方がないっ! 清水(きよみず)の舞台から飛び降りたつもりで、この額に、しちゃいましょ!!」
「このコースで、ですよね? あとから追加料金・・なんて欲張ったことは?」
「ははは…楽しい旅を提供する我が社に限ってそんなっ! それにお客様、三泊四日で¥6,200の格安料金でございますよっ!? 程度ってもんがっ!」
「これ以下は無理と?」
「はい、もちろんっ!! 完全な出血大サービス! これ以下だと、うちは破産しちゃいますっ!」
「さすがに、破産はしないでしょう…」
「ええまあ、破産はしませんが…」
「私も欲を出し過ぎました。程度ってもんがありますよね?」
「はい! お客様じゃなかったら、私、あなたをブン殴(なぐ)ってるかも…」
「ははは…ブン殴られなくてよかった! 今までの話は冗談、冗談ですよっ! 最初の料金で、結構です」
「お、お客様!! …」
旅行者の係員は、客の手を取り、急に涙目(なみだめ)になった。
「そんな大げさなっ! この程度で…」
最初の料金は¥6,700だった。もちろん、キャンセルされたチケットである。^^
欲の程度によって楽しいものも楽しくなくなったり、楽しくないものも楽しくなったりするのが人の世・・ということになる。^^
完