水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (67)至福(しふく)のひととき

2019年12月02日 00時00分00秒 | #小説

 人は至福(しふく)のひとときを楽しみに働く。誰も苦しみたくはない訳だ。^^ ただ、至福のひとときを得るためにはお金が必要となる。そのお金を手に入れるため、懸命に汗し、怒られても耐え忍んで働くのである。その結果、お金が手に入り、誰に憚(はばか)ることなく楽しい至福のひとときを持てる・・と、まあ話はこうなる。^^ この至福のひとときを持てるには、いくつかの条件が必要となる。まず[1]として、前述した働く・・ということだが、働くには働ける場が必要となる。さらに[2]として、働く場があっても本人にそこで働く気持がないとダメである。[3]は働いてお金を得たとしても、至福のひとときを得る方法を知らなければ得ることはできない。ただ、知り過ぎは溺(おぼ)れるからいいとは言えないし、何もしないで至福のひとときだけを得ている人は論外と言える。^^
 薄暗くなったとある川沿いの屋台である。赤提灯に照らされ、勤め帰りの三人の客がオデンを肴に一杯やっている。
「今日の演技は疲れました…」
「ああ、寒かったからなぁ~」
「あなたは若いんだから頑張らないとっ!」
「はいっ!」
 先輩の女性にダメ出しされた若手の俳優は、萎(な)えて素直に頷(うなず)く。
「でも、この至福のひとときが、なんとも堪(こた)えられないんですよねぇ~~」
「そうだよ、君っ! そのために僕らは演技して働くんだよっ!」
「ワァ~~!! どこかでお見かけしたと思ったら、テレビで観た方だっ! 観てますよっ! あの番組のファンなんですっ! 来週が最終回でしたよねっ! 私、あの番組を観るのが至福のひとときなんですっ!!」
「有難うこざいますっ!」「有難うこざいますっ!」「有難うこざいますっ!」
 二人の男優と一人の女優は、同時に声を出した。
「これ、ほんの私の気持で…」
 屋台の親父は、皿にオデンを数個づつ追加した。三人はにっこりと無言で頭を下げた。
 こういう至福のひとときは、実にいいですね。^^

                                


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