水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (77)感覚(かんかく)

2019年12月12日 00時00分00秒 | #小説

 人には暖かい方がいい人と寒い方がいい人の二(ふた)通りがある。好みの違いというよりは体質による感覚(かんかく)の差だが、自分の体質に合った気候だと、やる事なす事すべてが快適で楽しい気分になる。その逆だと楽しいことでも楽しくなくなるから不思議だ。
 とある温泉の旅館である。二人の旅行客が泊まっている。どうも夫婦らしい。あんなことや、こんなことをするのだろうが、その場面はムラムラするから割愛(かつあい)したい。^^
「俺はもう少し寒い旅の方がよかったよ。寒い日に温(あたた)かいお湯に浸(つ)かる・・これがいいんだよなっ!」
「あらっ! 私は今日のような暖かい日の方がいいわっ! 風邪を引きやすいタイプだから…」
「そうかっ!? 俺は絶対、寒い日の温泉旅の方が楽しいよ」
「私とは真逆ねっ!」
 そこへ旅館の仲居が料理を携(たずさ)えて入ってきた。
「失礼いたします。どちらでもよろしゅうございましょう? 旅が出来る・・これだけで十分、楽しいのでは? ほほほ…」
「…」「…」
 二人は仲居の言葉に押し黙った。
 感覚に関係なく、旅に出られるという境遇(きょうぐう)は十分、楽しいと有り難く思う必要があるのかも知れない。^^

                                


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