水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (82)箸(はし)

2019年12月17日 00時00分00秒 | #小説

 スーパーなどで寿司とか弁当を買うと、「お箸(はし)、要(い)ります?」とかなんとか訊(たず)ねる店員がいる。店の客対応マニュアルの一つなんだろうが、思わず『馬鹿か、お前はっ!』と気分を害される客もいることだろう。私は害さない。^^ だが、よくよく考えればそれも道理で、素手(すで)で弁当を食べる訳にはいかないのである。^^ そんな当然のことが分かっているにも拘(かか)わらず、マニュアルでは訊ねることになっているようだ。経営者サイドから考えれば、少しでも物件費を抑(おさ)えよう…という方針が見て取れなくもない。箸という小物一つを例にとっても、それだけ今の世の中が世知辛(せちがら)くなった・・ということだろう。ああ、嫌だ、嫌だっ!^^
 ポカポカ陽気の小春日和(こはるびより)である。晴れた青空の下(もと)、木々が紅(くれない)や黄色に色づく木陰(こかげ)のベンチで二人の老人が寛(くつろ)いでいる。
「どれどれ、そろそろ、昼にしますか?」
「ですなっ!?」
 二人は買い物袋から、それぞれ買ってきた弁当を取り出した。
「ほう! コンビニでしたか?」
「ええ、まあ…。あなたはスーパーで?」
「ええ、まあ…」
 首から吊(つ)るした魔法瓶のお茶を飲みながら、二人は弁当を食べ始めた。
「そういや、お箸、要りますか? って訊(き)かれましたよ」
「私はコンビニでしたから袋に入れてもらえましたが…」
「そうでしたか。ああ! そういや、コンビニは確かに訊きませんな」
「弁当にお箸は付き物でしょう! 素手で食べますか、フツゥ~~?」
「私もそう思いましてね、少しムカッ! としました」
「ははは…楽しい気分を害された訳ですな?」
「そんな大げさなもんじゃないんですが、ははは…」
 二人は大笑いをした。
 このように、箸、一膳(いちぜん)で楽しい気分を害する人もいる訳である。まあ、そういう人物は相当の変人だろうが…。^^

                                


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