水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (73)物

2019年12月08日 00時00分00秒 | #小説

 物を大事に使えば、いつまででもある。むろん、傷(いた)んで修理できなければそれまでだが、それ以外の部品交換ぐらいで済めば、いつまででも使える・・ということになる。これには、物に対する個人差があり、物の寿命は変化をする。物が傷んだとき、どう思うか、ということになる。消耗品感覚で別の物に買い換えるか、あるいは修理を考えるか、はたまた、工夫して買い足すか・・という三通りの考え方である。別の物に買い換える[仕方がない場合を除く]以外は、まあ、いいか…と得心がいく方法に思える。^^
 一人の男が、とある物を前にして途方に暮れている。
「傷んだか…。前の経験から考えると、修理に出せば高くつくな…。かと言って、この部分の故障以外は別にどうってこともない。ここは、買い足すか…」
 すると、その傷んだ物が口を開いた。いや、その男には口を開いたように聞こえた・・と言った方がいいだろう。
『仕方がないっ! 今回は、あなたの顔を立てて我慢しましょう!』
「んっ!? それをお前が言うんかいっ!」
『そりゃ、言いますよっ! ええ、言いますともっ!』
「ああ、聞こうじゃないかっ! どうだって言うんだっ!」
『まあ、ポイ捨てられるよりは、いいかな…なんてねっ!』
「…そう思ってんだっ!」
 そのとき、男の意識は遠退(とおの)いた。気づけば男はベッドで眠っていた。隣(となり)には、怪訝(けげん)な表情で窺(うかが)う妻の顔があった。
「どうしたの、ブツブツっ!」
 楽しい夢でも見ていたのだろう。その眠りを妨害(ぼうがい)された顔だった。男は昨日、傷んだ物を思い出した。そして、これくらいで済めば、まあいいか…と、安息(あんそく)の息(いき)を漏(も)らした。
 物に対しては、この程度に処すのが楽しい気分を維持できるベストの方策のようだ。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする