サンマを七輪で焼いた懐(なつ)かしい時代・・昭和三十年代の話だが、今から思えば、想像もつかない。というのも、家の外で消し炭(ずみ)を七輪(しちりん)の底に忍ばせ、その上に炭(すみ)を置き、そして火種(ひだね)を入れ、団扇(うちわ)で扇(あお)ぐ。すると、七輪から煙が立ち上り、まず涙が少し出る。そして消し炭は赤々と燃え、炭も燃え移って赤くなり始める。まあ、これくらいか…と思いながら七輪の上に網(あみ)を置き、その上に生(なま)のサンマを置く。しばらく焼いていると、サンマの脂(あぶら)が滴(したた)り始め、炭の中へジュジュ~~っと落ちる。すると、必然的に涙が流れ出る。それを拭(ふ)きながらサンマを裏向け、反対側を焼く。するとまた、サンマの脂が滴(したた)り始め、炭の中へジュジュ~~っと落ちる。と、また涙が必然的に流れる。サンマが焼けるいい匂(にお)いが辺りに立ち込め、目に染(し)みる辛(つら)い涙が嬉(うれ)しい涙となる。
『もう、焼けたぁ~~』
と、家の中から声がかかる。
『うん、焼けたよぉ~~』
と、自慢っぽく大きな声を出す。
焼けたサンマを箸(はし)で皿に乗せ、焼き立ての美味そうなサンマの匂いを吸いながら家の中へ入る。で、暖(あった)かいご飯で焼き立てのサンマを食す。お茶、香の物以外はいらない懐かしい秋の風情が流れたものだ。
あの頃のサンマを焼く涙は、なんともいえない嬉しい涙でした。^^
完