涙腺(るいせん)が緩(ゆる)いと、ほんの小さな出来事でも涙することになる。水道の蛇口なら、スピンドルとかケロップ、パッキンなどといった部品を交換すればいい訳だが、涙腺だけは硬(かた)く閉じる部品はつけられない…としたものだ。^^ だが、よく考えれば、そうとも言えないのだ。メンタル[心理]面の鍛(きた)えようによっては、そうでもなくなるのである。今日はそんなお話です。^^
どこにでもありそうな、とある街の喫茶店である。座席に一人座ってコーヒーを飲む中年の男が突然、大粒の涙を流して泣き出した。それまで、これといった変わった事もなくろ、他の客達は訝(いぶか)しげにその男をチラ見した。とはいえ、それは飽くまでも部外者として観望する程度だった。
「ぅぅぅ…ぅぅぅ…」
だが、その泣き声は次第に大きくなっていった。見かねた女店員がその男に近づいた。
「どうかされたんですか? で、なければ、他の方もおられますので、お静かにお願いします…」
小声でそう言うと、女店員はまるで悪いことでもしたかのように、奥の厨房へソソクサと引っ込んだ。男はしばらくの間、泣き止(や)んでいたが、また涙し始めた。
「あの…」
女店員が、ふたたび男の前へと近づくと、言うでなく注意を喚起(かんき)した。
「どうも…、私、涙腺が緩いもので、つい…」
男は事情を女店員に言った。
「…涙腺ですか?」
「ええ。それが何か…?」
「いえ、別に…」
女店員は,変わった人っ! と内心では思ったが、そうとも言えず、訝(いぶか)しげに男を見下ろし、その場を去った。男が泣き始めた真相は、川で釣り損ねた魚のことを思い出したからである。
涙腺が緩いと、こんな小さなことでも涙するのです。メンタル面を鍛えてもダメな場合、涙するのは仕方ないとして、場所柄(ばしょがら)を考えて涙したいものです。^^
完