水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (71)思わず

2023年10月24日 00時00分00秒 | #小説

 思わず、ぅぅぅ…と涙することがある。それは突然、感極まったときが多い。今日は、そんな涙のお話です。^^
 とある田舎の役場である。
「餅肌(もちはだ)君、言っといた資料は出来てるか?」
「はい、議会用の資料でしたね…」
「ああ、そうだ。見せてくれっ!」
 課長の井路目(いろめ)は餅肌にそれとなく小声で言った。明日のことだから、餅肌も用意周到に準備はしていた。餅肌が井路目に言われた資料を取り出そうとしたとき、突然、餅肌の携帯が鳴った。
「はい、餅肌ですが…。えっ! はいっ! すぐにっ! ぅぅぅ…」
 突然の電話に、餅肌は思わず涙した。
「どうかしたのかね、餅肌君?」
「妻が出産したらしいです…」
「ええっ! そりゃ目出度いじゃないかっ! おめでとう!! すぐ病院に行ってあげなさいっ!」
「はいっ! しかし、明日が議会ですし…」
「議会は議会だけのもんさ。すぐ行ってあげなさいっ! 届けはあとから出せばいいから…」
「はいっ!」
 餅肌は取るものも取り敢(あ)えず 役場を飛び出した。餅肌の目には、思いもしない涙が思わず溢(あふ)れ出た。

 ※ 本作は(69)のスピン・オフ作品です。^^

                   完


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