水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (53)涙量(るいりょう)

2023年10月06日 00時00分00秒 | #小説

 涙量(るいりょう)の限界とは、いったいどれくらいのものなのか…? という疑問を皆さんはお持ちになられたことはないだろうか? 私は、ふと、そんな疑問を抱いてしまった暇人(ひまじん)の一人である。^^ 涙量とは、涙が出る量だが、その限界とは? という素朴な疑問である。もちろん、内容や人によって涙の出る量には個人差があるだろう。ということで、今日はそんなお話である。
 深夜、一人の女性が公園のベンチに座り、よよと泣き崩れている。幸い、辺りに人影はない。深夜だから当然といえば当然だが、深夜に公園で泣いている・・という構図が、フツゥ~に考えれば尋常ではない。そのとき、警邏(けいら)中の巡査が自転車で通りかかり、ベンチで泣く女性に気づいた。
「ど、どうされました?」
「ぅぅぅ…」
 泣く女性が手にしたハンカチはすでに涙でビショビショである。女性は泣き止むことなく、そのビショビショになったハンカチで鼻をかみ、手で絞る。見るからに汚(きたな)らしい。夜の冷気が増している。
「こんなところにいると、風邪ひきますよ…」
 警官は、汚いなぁ~…とは思うのだが、そうとも言えず、遠回しにアドバイスをした。
「ぅぅぅ…」
 泣く女性は、いっこうに泣き止む気配が見えない。そればかりか益々、泣く涙量は増すばかりだ。女性は二枚目のハンカチをバッグから出そうとしたが、追いつかない…と思ったのか、タオルを取り出した。そのタオルも瞬く間にビショビショに濡れた。すると女性は、そのビショビショのタオルで鼻をかみ、また手で絞った。警官は、アンタ、いったいどれだけ涙を…とは思ったが、そうとは言えないから、しばらく沈黙した。
「それじゃ、早く帰りなさいよ…」
 警官が最後に発した言葉である。警官はなにも見なかった態(てい)で、ギコギコと自転車を漕ぎ、逃げるようにその場を去った。
『バケツ一杯は出てるか?…』
 警官は自転車を漕ぎながら、そう思った。
 涙の涙量は測定しづらいのである。^^

                   完


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