泣きの涙で頼み込む・・という言葉がある。平身低頭、手を合わせて相手に懇願する表現の一方法である。
とある中小企業の社長が銀行の応接室で銀行の行員、牛頭(ごず)と話し合っている。
「ぅぅぅ…そこをなんとかっ! 融資を断られた日にゃ、私ら、首を括(くく)るしかありませんっ! なんとか、もう半年っ!」
「馬鹿言っちゃいけませんよ、豚尾(ぶたお)さんっ! 半年半年で、あなたの会社にゃ、もう六回、三年も融資してるんですからっ! これで七度目じゃ、うちの銀行もちませんっ!」
「ぅぅぅ…、ですから、そこをなんとかっ!」
「なんとかしたいのは山々なんですよ、うちも…。なにも、あんたの会社を潰(つぶ)したいなんて思っちゃいません。思っちゃいませんがねっ! 業績がこれじゃ…」
牛頭の豚尾への呼び方が、あなたからあんたになった。牛頭は業績を示す折れ線グラフの書類を豚尾の前へ示した。グラフは純利益が減少した右肩下がりの業績を描いていた。
「ぅぅぅ…なんとかしますからっ!」
両手を合わせ、泣きの涙で豚尾は懇願した。目には大粒の涙が光り、幾筋もの涙が頬(ほお)を伝っている。
「なんとかしますからって、あんたっ! 私らも慈善事業してんじゃないんですからっ!」
「ぅぅぅ…」
そう言った牛頭だったが、豚尾の目に溜(た)まった涙を見て、態度が変化した。
「分かりましたっ! 今回までですよっ! 半年後、業績回復がなければ、本当に打ち切りますからっ!」
「あ、有難うございますっ! ぅぅぅ…」
豚尾の涙は益々、止まらなくなった。牛頭は見かねたのか、背広からハンカチを出すと、豚尾に手渡した。
完