水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (75)怒られる

2023年10月28日 00時00分00秒 | #小説

 怒られる事態となれば、誰だって青菜に塩となる。反発して怒り返せば事態はさらに深刻となり、トラブルあるいは口喧嘩へとエスカレートするから注意が必要だ。怒られることで、ぅぅぅ…と涙が出る事態は子供時代が多く、大人になって涙を流す場合は、怒られる内容が本人にとって非常に辛(つら)い場合に相違違ない。今日は怒られるときに出る涙のお話です。^^
 (74)に引き続き、とある町役場である。課長の蒲田(かばた)は次長昇進が見送られたのが堪(こた)えたのか、すっかり落ち込んでいた。
「課長、最近元気がないな…」
「ああ、そうだな…」
 大船(おおふな)は隣のデスクに座る太秦(うずまさ)に小声で呟(つぶや)いた。その声は敏感な課長の蒲田の耳にも当然、聞こえていた。蒲田はどういう訳か無性に腹が立った。大船と太秦ではなく、ショボい自分の心に腹が立ったのである。
「大船、ちょっと来てくれっ!」
 蒲田のそんな心が大船を呼びつけた。
「はいっ!」
 少し驚いて、大船は蒲田のデスクへと急いだ。
「この、議事録書な、少し脱字があったぞっ! 注意してくれないと困るじゃないかっ!」
「はあ、どうもすいません、昨日、お渡ししたのも間違ってましたか…」
 怒られることになった蒲田は意味が分からず訝(いぶか)った。というのも、脱字があった個所を修正し、昨日、蒲田に手渡したからだった。
「昨日?」
 蒲田はそのとき、ふと気づいた。昨日の差し替えの紙を見落としていたからである。怒った蒲田は心で、ぅぅぅ…と涙した。
 怒られる人が必ず涙するとは限らないようです。^^

                   完


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