赤ちゃんは、よく泣く。そんなに泣くことがあるの? と首を傾(かし)げたくなるほど、よく泣く。声が大きい割に涙の量は少ないようだ。理由は、赤ちゃんに直接、訊(き)いていないから分からない。^^ 今日は、そんなお話です。^^
とある産院である。生まれたばかりの赤ちゃんに会おうと、父親が役所を抜け出して駆けつけた。生まれたばかりの赤ちゃんは母親の横でスヤスヤと寝息を立てている。
「ちょっと、抜けてきたよ…」
「明日は忙(いそが)しいって言ってたでしょ。夜でいいのに…」
「ははは…初めての我が子だぜ。そんな訳にはいかないさ…」
「そおう?」
「おおっ! よく眠ってるなっ!」
そのとき、父親の動きで目覚めたのか、赤ちゃんが目を開けた。
「あっ! 起きた起きたっ!」
父親は興奮ぎみに声を少し大きくした。その途端、赤ちゃんは涙を浮かべ大声で泣き始めた。父親はギクッ! と驚いてベッドから少し遠のいた。
『…本当に俺の子か?』
心の中でふと、そう思った父親だったが、女性の看護師のオムツを取り替える動きを見て、『まあ、そうなのか…』と安堵(あんど)した。よくよく考えれば、何に安堵したのか? という訳が父親にも分からなかった。父親は知らず知らずのうちに、指を折りながら頭の中で何やら数え始めた。
「やはり俺の子か…」
そう呟(つぶや)き、ふたたび安堵した父親は、もう一度赤ちゃんを覗(のぞ)き込み、心の中で嬉(うれ)し涙を流した。赤ちゃんはそんな父親の心を知ってか知らずか、オシメを取り替えてもらった心地よさで無邪気に笑い始めた。
赤ちゃんが泣いて涙すると、いろいろと関係者は戸惑うことになるようです。^^
完