名作と呼ばれる作品は、他と比べ、呼ばれるだけの大きな違いがある。名作はいろいろな分野に存在するが、中でも本と呼ばれる名作は、読む人をして思わず涙させる場合がある。今日そんなお話です。
とある市立図書館である。一人の女性が涙でビッショリ濡れたハンカチを片手に本を読み耽((ふけ)っている。図書館だから静かに読むのは当然で、会話する人すらいない。そんな中、その女性は、また涙を流し始めた。しかもそれは、雨に例えるならドシャ降りのような泣き方で、嗚咽(おえつ)の声を交えて、である。その声だけが館内に響き始め、図書館司書は声に気づいて席を立った。そしてしばらく館内を歩きながら、その声の出どころを探していたが、ようやく泣く女性に気づき、静かに声をかけた。
「あの…すみませんが、静かにお読みいただけますか? 他の方の迷惑になりますから…」
「…すいません、つい…」
泣く女性は、そう言って一旦は泣き止んだ。が、しかし、数秒もしないうちにまた涙を流し、泣き始めた。
「ぅぅぅ…」
図書館司書は注意したあと、遠ざかろうとした矢先だったから、思わず振り返った。
「あの…今、言いましたよねっ!」
図書館司書は、やや声を大きくして言った。
「…すいません、つい…」
泣く女性は泣き止むと、また同じ言葉を口にした。
『ったくっ!! いい加減にしなさいっ!!』
とは思ったが、そうとも言えず、図書館司書は少し呆(あき)れ顔で睨(にら)んだ。
「すみませんっ! でも、この名作、泣けるんです、ぅぅぅ…」
その言葉を聞き、図書館司書は涙を流し始めた。
「私も困るんです…」
「ぅぅぅ…」「ぅぅぅ…」
このように名作は涙を流させるのです。^^
完