同じものを見ていても人の目はそれぞれ感覚が異なり、違って見えるようだ。例えば青空にポッカリ浮かぶ雲の形一つとってもそうで、ある人はアンパンに見えるかも知れないし、またある人はホンワカ湯気(ゆげ)を立てる肉饅(にくまん)を想像するかも知れない。今日はそんな視覚で涙した人のお話です。^^
とある河川敷の草原(くさわら)に座り、二人の老人が青空に揚(あ)がったゲイラカイトを見上げている。風も適度に吹いていて、凧(たこ)揚げには絶好の凧日和(たこびより)である。
「時代も変わりました。洋風凧ですか? ずいぶん高く揚がりましたな…」
「そうですなぁ、私も凧はよく揚げたものですが…」
頷(うなず)いた老人の目には涙が光っていた。
「どうかされましたか?」
「いや、なに…遠い昔を、ふと想い出したもので…」
その老人の想い出は、子供の頃、凧揚げをして帰った夕暮れ、揚げてくれた祖父が突然、急死した・・という悲しい出来事だった。老人には青空に揚がるゲイラカイトが子供の頃に揚げた凧に見えたのである。もう一人の老人には高くまで揚がるただの洋風凧としか見えていなかった。
「ほう…そんなことがありましたか。それはそれは、お気の毒なことで…」
涙の訳を聞かされた老人は納得し、悔(く)やみを言った。
「ははは…遠い昔の話です」
涙ぐんだ老人は、愉快に笑った。
このようにフツゥ~に見えるものでも、時として涙ぐむこともある訳です。^^
完