水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (68)悪役

2023年10月21日 00時00分00秒 | #小説

 悪役というのは難しいようだ。憎々(にくにく)しげに演じなければ主役が引き立たないのである。まあ、私では喜劇になってしまうから無理なようです。^^
 とある撮影所である。
「ええいっ! 出会え、出会えいっ!!」
 場面は最高の見せ場で、主役がバッタバッタと悪役の家老に命じられた家臣達を斬り倒していくシーンだ。
「どうの(どうたら)…こうのっ(こうたらっ)!」
 主役が決め台詞(ぜりふ)を言いながら一人、また一人と家臣を斬り倒していく。次第に悪役は後(あと)ずさりしながら身を守る。それでも一人、また一人と家臣達を斬り倒し、主役は悪役に迫っていく。そのとき突然、監督の大声が響いた。
「カット、カットっ!! 君ね、憎らしくないんだよっ! それじゃ、ただの怖がりじゃないかっ!」
「どうも、すいません…」
 悪役は青菜に塩となる。
「全部やり直しっ!! はいっ! シーン32、通しでっ!」
 監督のひと声で撮影はふたたび継続する。カチンコが叩かれ、カメラは通しで回り続ける。が、しかし、同じ場面になると、また監督の声が激しく響く。先ほどよりは幾らか大きな声だ。
「カット、カットっ!! ダメだな、君は…。それじゃただの怖がりだって言ったろっ!」
「すみません…」
 窘(たしな)められた悪役は、ペコリ! と頭を下げて謝(あやま)る。悪役の内心は、『ぅぅぅ…そこまで言わなくてもっ!』で、涙に暮れている。
 このように、悪役は悪役っぽい人が似合うようです。まあ、その逆も言えますが…。^^
 要するにキャスティングは適材適所がよく、小さなことで涙を流しやすい人は悪役には不適という結論になります。^^

                   完


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