水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (77)混合型

2023年10月30日 00時00分00秒 | #小説

 笑いながら泣くという混合型の涙の出方もある。むろん、笑いながら怒るという特技をお持ちのお方もおられようが、そこはそれ、今日の場合は笑いながら涙を流すお方のお話です。これが天然ではなく、特技で笑いながら流される涙なら芸能方面にお向きで、一般社会でお暮しというのはもったいないと言えるでしょう。^^
 とある市役所の生活環境課である。血相変えて庁舎へ飛び込んできたのは
この課の職員、平藤(ひらとう)である。苗字のとおり平藤は定年間近い万年ヒラ職員で、出世の見込みはない、と自他ともに認める天然の男だった。^^
「どうしたっ!?」
「課長、豚が子豚を産みましたっ!」
 平藤は課長の凧坂(たこさか)に笑いながら涙を流し報告した。
「そ、そうか。それはよかったじゃないか、ははは…」
 毎度のことだったから、凧坂は適当にあしらって笑った。平藤の話に付き合えば優に小一時間は取られ、仕事どころの話ではなかったからである。
「それも、僕が思っていたより二匹も多かったんです、課長っ! ぅぅぅ…、ははは…」
 死にかけていた豚が、全快して子豚を産んだのが余程(よほど)嬉(うれ)しかったのか、天然の平藤は涙を流しながら笑い続けた。
「そうかそうか、それはよかったな、ははは…」
 課長の凧坂は、混合型かっ! 笑うか泣くかどちらかにしろっ! …とは思ったが、長話になるのもなんだな…と判断し、思うに留めた。
 このように、天然のお方は混合型で涙が流せるのです。ただし、他の人達の迷惑にならないよう注意しましょう。^^

                   完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする