今日も国際関係アナリスト・北野 幸伯さんのメルマガからお伝えします。
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全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは! 北野です。
RPEでは、2015年のAIIB事件直後から、「米中覇権戦争がはじまった」という話をしていました。
あれから5年経ち、ようやく世界中で、「米中新冷戦」という言葉が、普通に使われるようになってきました。
皆さんご存知のように、ポンペオさんは7月23日の演説でこんなことをいいました。
<中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした政策を継続してはならない。
戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない。>
<(中国共産党の)習近平総書記は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。
中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。
我々は、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない。>
<志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。
自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。
中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ。
米国は建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。
ニクソンは1967年に
「中国が変わらなければ、世界は安全にはならない」と記した。危険は明確だ。
自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることは決してできない。>
演説のポイントは三つです。
1、習近平は全体主義者で、世界制覇を狙っている。
2、自由世界(=民主主義国家群)は、新たな圧政(=中国)に勝利しなければならない。
3、中国に勝つために、新たな同盟を結成する必要がある。
「根拠」は、今回の発言だけではありません。
私は、2015年からずっと同じことをいっている。
そして、それから米中関係は悪化しつづけている。
だから、この演説を聞いて、「事実上の宣戦布告」と位置づけた。
ところが、「アメリカは、中国を倒す気なんて全然ありませんよ」という複数のメールをいただきました。
そう考える二つの理由があると思います。
一つは、「平和ボケ」で「米中覇権戦争が起こっている」ことを認識できない。
もう一つは、むしろ米中関係を「知りすぎて」、米中覇権戦争が起こったことを確信できない。
一番目は、いいでしょう。
二番目は、なんでしょうか?
▼米中関係は、極めて良好だった日本人の大部分は、「民主主義国のアメリカと、共産党の
一党独裁国家中国の仲は、ずっと険悪だった」と思いがちです。
しかし、米中関係は、「きわめて良好だった」のです。
1970年代はじめ、アメリカと中国は、ソ連を大いにおそれていました。
ソ連は、1949年には原爆実験を成功させた。
1961年には、アメリカよりも先に、世界初の有人宇宙ロケットの打ち上げに成功しています。
60年代、70年代は、「ソ連がアメリカを打倒して覇権国になる」という展望があったのです。
そこで、アメリカは1970年代初め、ニクソンの時代に中国と和解することにしました。
その時活躍したのが、未だに元気でトランプにアドバイスしているキッシンジャー(当時大統領補佐官、後国務長官)でした。
彼は、米中関係について、「事実上の同盟関係に移行した」と、70年代時点で断言しています。
そして、トウ小平の時代、アメリカは、資金と技術を惜しみなく中国に与えました。
日本も、競うように、中国に資金と技術を与えた。
だから、「アメリカが中国を育てた」というのは、まさに事実なのです。
1970年代以降、米中関係が悪化したのは、一度しかありません。
1989年の天安門事件後の数年間です。
しかし、1993年から米中関係は再び好転しました。
その後も両国は、「事実上の同盟関係」を維持してきた。
この話、「信じられない」という人もいるでしょう。
証拠をバンバン挙げることもできますが、メルマガという媒体では長くなりすぎるので、なかなか難しい。
興味のある方は、この二冊をご一読ください。
全部わかります。
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▼アメリカが“マジ”になるとき
確かに、過去40年以上、米中関係は、「事実上の同盟関係」だった。
だからといって、永遠に同盟関係がつづくとは限りません。
アメリカは、他国を本気で打倒しようと決意することがあるのでしょうか?
あります。
リアリズムの神ミアシャイマー(シカゴ大教授)によると、過去3回そういうことがありました。
1回目は、ナチスドイツです。
2回目は、大日本帝国です。
3回目は、ソ連です。
アメリカは、いつナチスドイツと大日本帝国打倒を決意したのでしょうか?
これ、いわゆる「定説」とはずいぶん違います。
ミアシャイマーは、「1941年6月だ」といいます。
この時、ナチスドイツは、独ソ不可侵条約を破り、ソ連攻撃を開始しました。
もし日本が、ナチスドイツ側にたって即座に参戦し、ソ連に攻め込んだらどうなったでしょうか?
ソ連は、二正面作戦を強いられ、戦力が分散し、敗北する可能性があった。
するとソ連は消滅し、ウラルから西をドイツが、ウラルから東を日本が支配することになる。
すると、ドイツは、西欧、東欧、ソ連の西半分を支配する欧州の覇権国家になる。
日本は、朝鮮半島、中国、満洲、ソ連の東半分を支配する
アジアの覇権国家になる。
アメリカは、こういう展望が見えた時点で、「ナチスドイツ、大日本帝国を打倒すると決意した」というのです。
ソ連は、どうでしょうか?
ソ連は2次大戦終結後、東欧を共産化することに成功しました。
アメリカにとって、リアルな脅威になってきた。
それでアメリカは、2次大戦の敵日本とドイツ(西ドイツ)を味方につけ、ソ連と対峙することにした。
さらに70年代には、中国を「事実上の同盟国」として、ソ連打倒に動いた。
この三つの例からわかることは、
アメリカは、自国の覇権を脅かす存在が出てきたときは
「マジになる」ということなのです。
その時、「過去の関係がどうだった」とか関係ありません。
ちなみに、日米関係は、日ロ戦争中まで非常に良好でした。
アメリカは、日本の戦時国債を大量に買い、日本を資金面からサポートした。
そして、「極東の平和は、アメリカ、日本、イギリスの事実上の同盟関係によって保たれるべきだ」などといっていた。
ところが、日ロ戦争後、日本が満洲の利権を独占したので日米関係は悪くなった。
アメリカは、ナチスドイツを打倒するために、最大の敵ソ連のスターリンと組みました。
その後は、ソ連を倒すために、日本、ドイツ、さらに独裁者毛沢東の中国とも組んだ。
これを見ると、
アメリカは、自分の覇権を脅かす存在が現れた時、なりふりかまわず打倒することがわかります。
繰り返しますが、その時「今まで仲がよかったから」というのは、全然意味のないことなのです。
▼アメリカの支配者が中国打倒を決意した時
では、アメリカは、いつ中国打倒を決意したのでしょうか?
1945年~1991年までを、冷戦時代、米ソ二極時代といいます。
ソ連が崩壊した翌1992年から、アメリカ一極時代です。
アメリカ一極時代は08年からの危機で終わりました。
09年から、世界は「米中二極世界」になりました。
しかし、その関係は、「沈むアメリカ、浮上する中国」という関係。
アメリカは沈みつづけ、中国は浮上しつづけ、2015年3月に「裏歴史的大事件」が起こったのです。
それが「AIIB事件」でした。
この時、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国
など、いわゆる「親米諸国群」が中国主導AIIBへの参加を表明した。
ポイントは、アメリカがこれらの国々に、「入るな!」と要求していたこと。
つまり親米諸国群は、アメリカを完全無視して、中国に従った。
これで世界は、「嗚呼、アメリカの覇権は終わった、これからは中国の時代だ」と認識したのです。
アメリカは、これで目覚めました。
ボンヤリもののオバマ大統領も、南シナ海の埋め立て問題などで、中国バッシングを開始。
2015年~16年、彼は激しく中国バッシングをしていました。
皆さん忘れていると思いますが、当時は「米中軍事衝突」が懸念されるほど関係が悪化していました。
<南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。
軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。>(夕刊フジ・2015年5月28日)
基本的に、この時点で「米中覇権戦争」は、はじまったのです。
それが「徐々にエスカレートしてきている」というのが、現在の流れです。
アメリカは、中国共産党政権を打倒する気が全然ない。
となると、トランプさんやポンペオさんの強硬発言は、「選挙で勝ちたいから」となるでしょう。
確かにそういう要素はあるでしょう。
アメリカは、新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数が世界一である。
アメリカ国民は当然、トランプを批判します。
トランプは、「いや、俺は悪くない。悪いのは中国だ!」と責任を転嫁したい。
そういうロジックです。
ですが、アメリカの反中が、オバマ時代の2015年からつづいているとしたらどうでしょうか?
オバマは二期目で、選挙のことを考える必要は全然なかった。
にも拘わらず、彼は中国と対決していた。
理由は、「アメリカの覇権を守るため」、あるいは「アメリカの覇権を取り戻すため」です。
だから、ポンペオさんの演説は、「マジ」なのです。
日本は、同盟国として、アメリカのバランシング同盟に参加しなければなりません。
もちろん、中国を挑発する必要はありませんが、明確に「アメリカ側」にいる必要があります。
---owari---
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