このゆびと~まれ!

「日々の暮らしの中から感動や発見を伝えたい」

ハイテクを生み出す産霊(ムスヒ)の力(前編)

2022年09月27日 | 日本
多くの日本企業がいまだに守り神を祀っている理由は?

(グローバル・ビッグ・ビジネスの守り神)
トヨタ自動車は2003年の世界の自動車販売台数で、ついにアメリカのフォード・モーターを抜いて、世界第2位に躍進した。今や、日本経済復活の旗手となった感があるが、このグローバ
ル・ビッグ・ビジネスに守り神がいるのをご存じだろうか。

「トヨタ神社」と呼ばれる愛知県豊田市の豊興(ほうこう)神社で、鉄の神様である金山比売(かなやまひめ)、金山比古(かなやまひこ)を祀っている。トヨタ創業の大正14(1925)年に建立された。

毎年、年頭にトヨタ自動車や関連グループの首脳、幹部役員が勢揃いして参列する前で、神主が祝詞を奏上し、参拝者全員がトヨタの繁栄と安全を祈る。この年頭神事は神社建立以来、毎年行われている。

日本には、トヨタ同様に守り神を祀る企業が少なくない。三菱グループの守り神・土佐稲荷は一般に「三菱稲荷」と呼ばれ、東京三菱銀行・大阪西支店の屋上に社殿が建立されている。三井グループは東京の台東区牛島の隅田川畔に祀られた三囲(みめぐり)神社。そのほか日立製作所の熊野神社、東芝の出雲神社、出光興産の宗像神社、資生堂の成功稲荷、キッコーマンの琴平神社などなど、枚挙にいとまがない。

(企業が守り神を持つ意味)
これら日本を代表する国際的な大企業が、揃いも揃って、それぞれの神様を祀っているというのは、どうした訳か? 一社だけならアナクロニズム(時代錯誤)と一笑に付すこともできようが、これだけ揃うと、そこには何か合理的な理由があると考えざるを得ない。

その理由は、各企業で年頭や創立記念日などに行われる神事に立ち会って見ると実感できるだろう。社長以下、幹部が打ち揃い、なかには従業員や家族、取引先や地域の人々も参加して、企業の繁栄を祈る。

日頃は利益競争や出世レースにしのぎを削っている人々も、この日ばかりは、その企業が歩んできた歴史を振り返り、自分たちはリレー走者の一人として、先輩から企業を受け継ぎ、さらに発展させて、次世代に渡す使命があることに思いを致す。同時に一同に会した人々が力を合わせて、その使命に向かわねばならない、という決意を新たにする。それによって自らの姿勢を正し、明日への行動のエネルギーが生まれる。

こうして年に一度は、自分が企業という共同体の一員であることに思いをいたし、全体に対する責任と使命感を再確認する所に、各企業で守護神を戴き、神事を執り行う意味がある。それは深い意味での社員教育なのである。

(現代のハイテク社会を支える「祈り」)
守り神を持つのは企業ばかりではない。福井県敦賀市の日本原子力発電・敦賀発電所には、神棚が設けられ、地元の常宮(つねのみや)神社の神札が祀られている。毎年6月末には神社で「安全祈願祭」を行い、幹部関係者が参列して、安全と繁栄を祈る。

同県美浜町の関西電力・美浜原子力発電所には丹生(にう)稲荷神社が祀られている。新潟県柏崎市と刈羽村をまたぐ東京電力の柏崎刈羽原子力発電所では、7基の各発電機に神棚が設置され、伊勢神宮の天照大神が祀られている。

海上自衛隊の艦船には、任務の円滑な遂行と航海安全を祈って、神社の神札を奉安した神棚が祭られている。たとえば精鋭の主力艦である護衛艦「ひえい」には艦名にちなんで、東京・千代田区の日枝(ひえ)神社からいただいた神札が、神棚の白木の小さな宮に祭られている。参拝は乗組員の自由意志で行われる。

航空会社では、新鋭ジェット旅客機の導入にあたって、神官に来て貰って、機体を祓い清め、安全を祈る。パイロットたちは、航空安全を祈って神社に参拝し、操縦席に神札を貼る。

そう言えば、我々も車を買ったときに神社でお祓いを受けたり、安全運転のお守りを運転席に吊したりする。それと同じ事が、原子力発電所からジェット機まで行われているのである。

その意味合いは、我々が車にお守りを吊すのと同じである。神様にお祈りしただけで、安全が保証されると信ずる人はいない。神様に安全を祈る事を通じて、自分自身でも努力することを誓う、お守りが目に入るたびに、自分自身も安全運転をしなければと気を引き締める、そこにお守りの効用があると言えよう。

どんなにハイテクの設備を使っていても、それを使うのは人間である。その人間がときおりの祈りを通じて心を新たにして、安全運転に取り組む。原子力発電所から、空や海の安全まで、現代のハイテク社会はこうした「祈り」に支えられているのである。

(産霊(ムスヒ)の力)
原子力発電所からジェット機まで、現代日本の先端技術は古来からの神様と共存している。というより、神道の思想が先端技術を支えていると言うべきなのである。

そもそも神道では、稲作を通じて形成された「モノを生み出し、造り成す」という産霊(ムスヒ)の力への信仰がある。古事記・日本書紀の神話は、天地の始めに天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみ「むすひ」のかみ)、神産巣日神(かみ「むすひ」のかみ)の造化三神が天地・山河・自然を創成したと伝えている。

産霊は生殖によって生命を産み出す力をも意味し、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)は結婚して、日本の国土を産みなす「国生み」や、多くの神々を誕生させる「神生み」を行った。この二神から生まれた子供の中に、五穀を実らせる和久産巣日(わくむすひ)の神、火を産み出す火産巣日(ほむすひ)の神などがいる。

このように「産霊」の力は天地万物を創成し、人や作物を産み出し、豊穣と繁栄をもたらす。多産による子孫繁栄、豊作による五穀豊穣、生産と技術による企業の繁栄、さらには国と国との結びつきによる平和をもたらす。

「ムスヒ」とは「結び」であり、さまざまなものを結びつけて、そこから生命や活力を産み出していく力である。水素と酸素が結びついて水となり、男女が結びついて子供ができ、家々が結びついてムラやクニができる。現代流にネットワーキングと言ってもよいであろう。すべてのものは「結び」から生み出される、という自然観、社会観は、現代科学にも通ずる合理的な考え方である。

---owari---
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 世界に愛される"Japan Cool"... | トップ | ハイテクを生み出す産霊(ム... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日本」カテゴリの最新記事