2015年にイングランドで開催された「ラクビ―ワールドカップ2015」で、日本チームは予選プールで3勝を挙げ、世界中から称賛されました。
特に人気となったのはフルバックの五郎丸歩選手でしたが、私は彼の表情に日本人の心を感じましたね。
いよいよキックしようというとき、間を通さなければならない二本のポールを睨(にら)んでいる彼の顔は怖い。緊張を高めている顔です。そしてお祈りをするかのように指を組み、だんだん姿勢を固め、風向きを見、風のスピードを見て、狙いどころを決めると、そこに向かって楕円形のラクビーボールを蹴り出します。
徐々に緊張を高めて集中していくのですが、彼がいよいよ蹴ろうとしてポールを見上げるときの顔はものすごく優しくなる。「優しく蹴ってやるから。ボールよ、真っすぐ飛んであの間を抜けてくれ。いいな、頼んだぞ」という顔なんです。
スポーツはだいたいそうなんです。トップアスリートと呼ばれる人たちは、最後は精神的な戦いに打ち勝たなければ勝利を手にできないのです。
ゴルフの青木功氏も言っていました。
「パットを入れるとき、私はボールに話しかけるんです。大事なパットだから、優しく打ってやるから、あの穴に入ってくれよなって。そうすると、ボールがウンって言う。その声が聞こえたときは入る」と――。
それは理論や統計の世界ではありません。自分もボールも一体になっていく世界です。五郎丸選手もきっとその境地で試合に臨んでいるに違いありません。それを見ていた私たちにも伝わり、心が揺さぶられるのを感じました。
ところがワールドカップを通じて、そんな心の動きについて解説する識者はただのひとりもいなかったのです。普通の日本人には深い心が伝わっていたのに、いわゆるインテリの解説者にはそれがわからなかったということです。
実は、これと同じことが経済でも言えるんです。ある一橋大学の偉い先生が、「日本には経済学・学者は、いっぱいいるけど、経済学者はいない。外国の経済学の本ばっかり読んで、それをしゃべっているだけだ」と言っていましたが、まさにそのとおりなのです。
(日下公人著書「『日本大出動』トランプなんか怖くない(2016年6月発刊)」から転載)
---owari---
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