※※ 本日、最後の記事です。
コラム:中銀マネーでコロナ渦中の株高長期化へ、落とし穴は新興国
[東京 5日 ロイター] -
○○⇨ 新型コロナウイルスの感染拡大後、世界的な株高局面となっている。それも実体経済は1930年代の大恐慌以来の落ち込みを経験しながらである。この原動力は、米欧日など主要国の中銀による超金融緩和政策と大規模な財政出動だ。各国とも企業の事業継続を当面の優先課題とした結果、市場から見れば、業績は悪化しても「倒産しない」と映った。国債を含めた債券の利回りが低下する中、余った資金は株に流入し続けるという構図だ。
◇◇ 中銀マネーが演出した株高は、しばらく継続するのではないか。日米欧ともに夏から秋口にかけた株高予想が広がりやすくなっているが、その実現可能性は高い。だが、ブラジルやトルコなど経済的な苦境を抱える新興国で金融不安が勃発すると、世界金融危機に発展するリスクがある。落とし穴は新興国だ。
<業績悪化で上がる株>
業績は悪化しても株価は上がる。5日の東京市場でも、東芝(6502.T)が2021年3月期の連結営業利益(米国基準)を前期比15.7%減の1100億円と発表したが、株価は一時、前日比4%を超す上昇となった。
日本株の上昇の背景として、東京市場の関係者が指摘するのは、日銀の打ち出した総枠約75兆円の「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」だ。CP(コマーシャルペーパー)・社債の買い入れ増、金融機関への特別オペ、制度融資などを前提にした新たな資金供給オペが3本柱だが、政府の緊急経済対策に盛り込まれた信用保証付きの無利子・無担保融資が資金供給対象になっている。
このため、企業の資金繰りは急速に改善しており「政府の資本増強策もあるので、日本の上場企業がつぶれることはほとんどないという安心感が台頭し、株式市場に資金が流れ込んでいる」(国内銀行の関係者)との見方が広がっている。
<中銀の企業信用支援、株高エンジンに>
マクロ指標や企業業績と株価の乖離は、欧米でも違和感を持たれながら進行している。ここでも中銀による「上げ膳・据え膳」の資金供給と債券利回りの低下が、株式市場に資金を呼び込んでいる。欧州中央銀行(ECB)は4日の定例理事会で、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の買い入れ規模を6000億ユーロ(6740億ドル)増の1兆3500億ユーロとし、買い入れ期間を6カ月延ばし2021年6月末までとした。これで欧州市場における株高の「燃料」がさらに増強されたかたちだ。
米連邦準備理事会(FRB)も3月に広範な企業信用の支援策を発表。BB格以下の社債購入まで踏み込み、当面は企業をつぶさないという「意思」を鮮明にした。ある国内市場関係者は「世界中でイールドが大幅に低下して債券投資に妙味がなくなった中で、米欧日の中銀が大量の資金を供給し、かつクレジット物を幅広く買ってくれるので、株式購入のリスクが大幅に低下した」と話す。
複数の市場関係者は、日経平均.N225が今年1月に付けた2万4115円の年初来高値を抜け、2万5000円を目指してもおかしくないと足元の市場心理の強さを指摘する。
米中摩擦の再燃に加えて、黒人男性の死亡事件に端を発した抗議行動が全米に広がっても株価の下落要因にならないのは、短期的な業績見通しと株価を切り離し、米大統領選のある11月初めまでは「株高」シナリオが継続するとの見方が、多数派を形成しているからだろう。マクロ指標や業績見通しと株価を切り離す見方は、ポストコロナ時代の市場心理の特色かもしれない。
<新興国リスクが破裂するリスク>
ただ、この新常態は物価が安定している間は機能するが、物価が上がり出すと新しい危機を生み出すことになる。債務が膨張している中で物価が上がれば、その国の通貨の信認が急落し、さらに物価が上がる悪循環にはまり込むからだ。
その危機が相対的に早く到来しそうなのが、新興国だろう。先進国の需要が急カーブで回復する兆しがない中で、国内の社会的コストがコロナ対応で急増し、財政赤字の悪化と貿易赤字の悪化が同時に進展しやすいからだ。
中でも経常収支の赤字幅が年間300億ドルを超え、外貨準備が700億ドル台にすぎないトルコは、景気悪化が長期化すれば(その可能性が高いが)外貨繰りに窮する事態も予想される。トルコで金融不安が表面化すると、ドイツなど欧州系金融機関の融資残高が大きいだけに、たちまち欧州金融システムへの波及が心配される展開が予想される。
トルコのアルバイラク財務相が5月27日にスワップ契約の締結を巡り、日米中など数カ国と交渉中であることを明らかにしたが、事態の悪化に備えた対応であることは間違いない。
コロナ感染者と死者が急増しているブラジルは、トルコの約5倍の3500億ドル台の外貨準備を持っているため、直ちにデフォルト危機に陥ることはないが、財政赤字が急膨張している。2020年のグロスベースの公的債務の対国内総生産(GDP)比は、約78%から93.5%に修正され、基礎的財政収支の赤字額は当初見込みの1241億レアルから6757億レアル(1210億ドル)へと膨張。対GDP比で9.4%と見込まれている。通貨レアルBRL=は一時の急落水準から持ち直しているものの、安値圏での推移が続いている。
こうした新興国の「火薬庫」に火が付けば、先進国経済や金融システムにも衝撃が波及してくるのは確実だ。「株高は続くよどこまでも」という市場心理が、どの程度継続するのかは、新興国経済の動向が鍵を握っていると指摘したい。
※※ コロナウイルスによる世界経済の混乱とカオスの中での異常な株高の構造、仕組みが判りました。しかし、何処までも上がり続ける株式市場はあり得ません。その反動がどうなるのか懸念されます。
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