じじい日記

日々の雑感と戯言を綴っております

盗作童話「最後の一葉」

2018-11-23 13:29:29 | 盗作童話

 とある村の庄屋に「鶴」という娘がいた。
鶴は幼少の頃から体が弱く、暑いと言っては臥せり、寒いと言っては、また臥せっていた。

今年の、長引いた梅雨の頃に体調が優れないと床に着いた鶴は、柿の実が熟れても起きられずにいた。

立冬を過ぎたある日、強い北風が吹いた。
翌日は寒くはあったが日差しがあり、陽だまりは暖かかった。
鶴は寝床を縁側の障子のそばに移してもらい横になったまま庭に目を向けていた。

初冬の、抜けるように澄んだ青い空に舞い散り落ちる木の葉を見ていた。
そして鶴は言った。
あの最後のひと葉とともに私も散るのかしら、と。

それはほとんど声にならない言葉であったが、ちょうど手入れに入っていた庭師の作造は聞き逃さなかった。

作造は見習いの頃から出入りし鶴の成長をずっと見て知っていた庭師だった。
いや、知っていたというよりも鶴の良き遊び相手でもあった。
病弱で屋敷の外に出ることの無い幼少の鶴は作造を遊び相手にしたのだ。
だから鶴は作造をよく慕っていた。

作造はよほど鶴の前に飛び出し、そんなことを言ってはいけない、気をしっかり持ってくれろ、と言おうとしたが止めた。
辛いのは聞いた自分では無く、思わず口をついてそんな言葉の出る鶴であると思ったからだった。

最後のひと葉は真紅に紅葉したもみじであった。
作造は鶴が眠るのを待って木に登った。
そして火で炙った松脂でもみじの葉を固めた。
これなら北風が吹いてももみじが落ちることは無い。

庄屋の庭は広かったので作造は手入れのために毎日出入りしたいた。
作造はあの日からもみじの葉の細工を欠かさなかった。

鶴は晴れていれば陽だまりを求めて床を縁側の障子のそばに移し、外を眺めていた。
木々はすっかり葉を落とし庭は寒々しい冬の景色になっていた。
しかし、その中に一点、真紅のもみじがいつもひと葉、どれぼどの北風吹いても飛ばずにいた。

鶴はそのひと葉が気になっていた。
いつかは必ず飛ばされるであろうもみじに己が明日を見ていたのだ。
そして言うのだった。
あのひと葉とともに私も散るのだ、と。

作造は落ちたもみじの葉をかき集めてあった。
北風に吹かれたもみじは1日と持たずに千切れてしまうのだ。
だからほとんど毎日付け替えていた。
これで、この葉っぱを見て鶴が冬を越してくれたらと作造は思ったのだった。

あれから幾日か経ち、もはや初冬は過ぎ、初霜から初氷を経て今朝は雪が舞った。
そんな日でも作造には庭の仕事があった。
そしていつものようにもみじの木に登り梢に枯葉を一枚松脂で付けた。
もみじの木はそこそこの高さでおよそ15尺もあった。
腕の良い庭師の作造は10尺でも12尺でも造作無く登れ、手早く作業をしていた。

もみじの梢に腕を絡め片足立ちをし、空いた手で懐の鳥黐を探っていた作造が何かの拍子に落ちた。
吹き付けた雪が氷となって作造の足を滑らせたのだった。
作造はもみじの下の氷の張った池に落ちた。
池が幸いして命に別状は無かったが強かに腰を打っていた。
しかし作造は冷たい池に浸かったまま唸ることもできずにいた。
やがては凍えて逝くことになるのは明らかだった。

障子を閉め奥で寝ていた鶴であったが大きな物音が気になった。
この日、庄屋の屋敷には誰もいなかった。
鶴についていた女中も一時ほどの暇をもらって外に出ていたのだ。
湯浴みと用足し以外ではほとんど起きることの無い鶴であったが虫の知らせる胸騒ぎにやっとの思いで立ち上がり、障子を開けた。

すっかり葉が落ちて見通せる先の池に異様なものを鶴は感じた。
よく目を凝らすと誰か人が池の中で蠢いているのが見えた。
鶴はとっさに作造であることを察した。

鶴は用足しに行くときの支えの杖を手に草履も履かずに庭に出た。
寝間着姿のままの鶴に北風が吹き付けていた。
おぼつかない足で池まで、やっとたどり着いた鶴は作造に、今助けてやるからと語った。

しかし鶴にそんな力が無いことは作造は知っている。
そんなことよりもこの寒さの中で寝間着一つの鶴の容体を気遣って、自分のことは構わないで屋敷に戻ってくれと懇願して言った。

だが鶴は聞かなかった。
「作造、最後のひと葉は貴方なのにどうして放っておけましょうか」と言うのだった。

作造は自分が池から出ないと鶴が動かないと分かり意を決した。
池に入ろうとする鶴を制して作造は、痛めていない右手で腰の棕櫚縄を探った。
そして探り当てた縄を鶴に投げ渡し、もみじの幹に巻いてくれろと頼んだ。

これも不思議であったがほとんど身動きできないほどに弱っていたはずの鶴が棕櫚縄を受け取ると素早くもみじの幹に結びつけたのだ。

作造は痛めていない右手に渾身の力を込めて引き、また、激痛の走る足で池の底を這いずった。
紅葉に結びつけた棕櫚縄を鶴も一緒に引いていた。
岸から這いずり上がるとき、作造に差し出された鶴の手は血が滲んでいた。
赤子にも等しい鶴の手は粗い棕櫚縄で痛めていたのだ。

作造は水から上がって震えていた。
歯の根も合わぬほどに震え言葉にならない声で鶴に礼を言った。
小さく華奢な鶴が作造を抱きかかえ、暖めようとしていた。

作造は、少し休めば動けるから屋敷に戻ってくれと懇願したのだが鶴は動かなかった。
このままでは自分ばかりか鶴を巻き添えにしてしまうと思った作造はもみじの幹に右腕を絡ませ立とうと試みた。
すると鶴が作造の左の腕の下に体を入れ持ち上げようとした。
鶴の髪が作造の顔の鼻先にあってとても良い香りを感じていた。

作造は思った。
死にたく無い、と。
閉じ込めていた鶴への想いが作造に力を与えた。

作造と鶴は互いに支えあい、どこから湧いたものか判らない力に助けられ屋敷の縁側にたどり着いた。

屋敷に上がった鶴は作造を裸にし自分の布団に寝かせた。
そして鶴も濡れた寝間着を脱ぎ作造の脇に身を寄せた。




 続かない・・・これでおしまい。





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青い鳥

2018-03-01 08:56:27 | 盗作童話

和夫は若い頃につまらない意地を張り人を殺め道を過った。

殺人罪で服役したのが1975年、23歳の時だった。

無期懲役だったが42年の勤めで仮釈を得て娑婆に出た。

65歳になっていた。

和夫は服役中に問題を起こした訳でもないのに懲役が伸び等工のランクや評価が悪く報奨金の額は低かった。

その理由は生まれついての厳つい顔と目つきだった。

理不尽だがそれだけの事で刑務官は和夫を反抗的と捉えたのだ。

だから出所した時の所持金は刑期の割に多くは無かった。


出所に当たって早く社会に適応できるよう配慮はされたが現実の娑婆の姿は想像を絶していた。

和夫の目論見では、住所を得、身支度を整え、携帯電話を買い仕事を探すつもりだった。

しかし、身分証明のできない和夫は部屋を借りる事も携帯電話を買う事も出来なかった。

社会復帰が厳しい事は覚悟していたが出所から一歩も前に進まない事に当惑を通り越して怯えていた。



どこからとも無く正午の時報が聞こえた。

刑務所で規則正しい生活に慣れた身体が昼飯を欲した。

和夫はコンビニのドアを遠くから眺め人の出入りを確認し店に入り菓子パンとパックの牛乳を買った。

公園のベンチで菓子パンを頬張り行く末を思ったが何も浮かんで来なかった。

ベンチを立っても行く所も為すべき事も無かった。


途方に暮れた和夫の視線の向こうに「たばこ」の看板が見えた。

その佇まいは昭和のそれで和夫の記憶を刺激し足は無意識にタバコ屋へ向った。


「ハイライト一つ」と封筒から千円札を取り出しタバコ屋の窓口に差し出した。

店番の婆さんは無表情に釣り銭の580円とたばこを磨り減った木製の台に置いた。

和夫は「ライターも下さい」と言ったつもりだったがそれは掠れて声になっていなかった。
しかし婆さんは事も無げに500円玉を取り100円玉4個とライターを煙草の脇に置いた。



公園のベンチに戻った和夫はハイライトの煙を胸一杯に吸い込んで咽せた。



80円のハイライトが420円でライターは100円のままかと呟き3分刈りの頭を掻いて笑った。

43年前、兄貴が煙草をくわえたら間髪を入れずに火をつけるのが役目だった和夫は常にライターを数個持ち歩いていた。

「チルチルミチル」あの頃の100円ライターがそんな名前だった事を思い出していた。


そうか、青い鳥か。

それは、いないんだよなと呟いて2本目のハイライトに火を着けた。





ネタは読んでいた小説から登用していますので内容については「悪しからず」であります。



















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キュートとの話し

2017-11-16 11:45:55 | 盗作童話


成田空港でPR433の出発時刻を待っていた。

手持ち無沙汰の暇潰しに免税店を冷やかしていたら普段は絶対に入り込まない化粧品のコーナーに紛れ込んでいた。
そして、香水の売り場で販売員の女性に「プレゼントですか」と声を掛けられた。
私は予期せぬ事にどぎまぎし、咄嗟に「二十歳くらいのフィリピンの娘なんだけど」と答えてしまっていた。
すると販売員は「南の国の明るい雰囲気の女性には軽い香が良いでしょう」と、間髪を入れずに薄いピンクの小瓶から小さな紙にスプレーを一吹きして私に手渡した。
その紙片からは、ココナツミルクの甘い香がほのかに漂っていた。

私はガラスケースのプライスカードに目をやり大した値段ではない事を確かめそれを買った。

日が暮れても熱帯の空気は熱かった。
マクタン空港を出ると送迎の人がごった返すエリアにキュートがいた。
ここでいつも不思議に思うだが、大勢の人混みの中で小柄なキュートを何故すぐに見つけるのだろう、と。

キュートは私の手を取りドメスティックのタクシー乗り場に向って歩き出した。
国際線ゲート前のチケットタクシーは料金が高いので少し歩いてメタータクシーを拾うのだった。

人混みから抜けたところでキュートが「深夜のバスは疲れるからセブに泊まっていきたい」と言った。
私はキュートのビサヤ語をしっかり聞き取ったのだが分からなかったふりをして「なに?」と聞き返した。
キュートが小さな声で「ガーゴ」(ばーか)と言った。

この時刻にマクタン空港に来るには昼頃のバスで街を出なければならない。
乗り換え無しでフェリーに接続するバスでも片道6時間近く掛かるのだ。
今から急げば8時頃のバスに乗れる筈だが、それでも到着は午前一時過ぎになる。
その往復は若いキュートでも嫌なのだろう。

ドメスティックゲート前もタクシー待ちの人が多く空車は居なかった。
しかしキュートが目敏く客を降ろしたタクシーを捕まえた。
行き先を尋ねる運転手にキュートが「サウス バスターミナル」と言った。
私はすぐに「ダウンタウン、オスメニアサークル」と言い直した。

キュートが私の手を握った。

「腹減ってないか」と尋ねると「ゴートム カァーヨ」と小声で言った。

セブプラザホテルで降ろしてもらいキュートの手を引いてフロントに向った。
タクシーの中からメールで予約を入れてあった。

部屋に入るとキュートはTVのスイッチを入れ冷蔵庫を覗いた。
答えは分かっていたが「ホテルのレストランが良いか、それとも外のバーベキューが良いか」と尋ねた。
案の定ご所望は屋台のバーベキューだった。

私はホテル脇の小径のサリサリストアーでサンミゲールのグランディーを1本買い豚肉の串焼きを食べさせる屋台に向った。
薄暗く埃っぽい路地には野良犬がたむろしていてキュートが少し怖がった。
私の影に隠れるようにして手を強く握り犬の横を抜け屋台の明かりを目指した。

どれ程食べても料金はたかが知れているのだが勘定を気にしたのか、キュートはスプライトと少しの串焼きを注文しただけだった。
私は持ち込みのビールを飲みながら豚肉の串焼きと鶏のレバーとチョリソーを適当に頼んだ。
「イカウ イノム カ」(呑むか?)とビールを勧めると「ディリ」(要らない)と言って野良犬に食べ残した串焼きの肉を投げていた。
私はキュートに「餌をやるから野良犬が集まるんじゃないか」と嗜めた。

私たちは会話も無く、キュートはトシーノ(豚の串焼き)を食べ飽き弄んでいた。
グランディーを飲み干し勘定を聞くと300ペソ(当時約600円)だった。

ホテルへの戻り道でサリサリに立ち寄りグランディーの空き瓶を返しサンミゲールのピルスンを3本買った。

部屋に入ったキュートはベットに腰掛けケーブルテレビのリモコンを忙しく動かしていた。
私はディパックの中から小さな包みを取り出しベットに放り投げた。
そうしながら、どーうして気持ち良くて渡せないのかと悔やむ自分がいた。

キュートは包みに目をやり「私に」と目で訴えた。
「オー オー」(yes)と言ったのにキュートは手を伸ばさなかった。
私は冷蔵庫からサンミゲールビールを取り出し机の角で栓を抜いた。
少ししくじって泡が漏れて床にこぼれた。

キュートが強い語気のビサヤ語で何かを言ったのが気に障って、イングリッシュ ナランと言い返した。
所々聞き取れた単語から大凡の事は推測できた。
たぶん、どうしてやさしい言葉が一つもないのかと、そんな事だったと思う。

私はビールの瓶を手に持ってTVを眺めるふりをしていた。

キュートは今年二十歳になるモスリムの娘だった。
大学へ通う為にミンダナオから出て来ていたのだが学資が乏しく、夜は街のレストランでアルバイトをしていた。
レストランのオーナーと呑み友達だった私はフィリピン娘にしては控え目な彼女に惹かれ
英語の先生と言う名目で紹介してもらい一年近くが経っていた。

今日の出迎えはキュートが勝手に来ていた。
とは言っても来ているかもしれないと期待する自分はその姿を探すのだが。
そこには隠し切れない思いがあるのだが、日本に妻子のある中年男はそれを口にする事はできなかった。

着替えの入った小さなバッグ持ってキュートはバスルームのドアを締めた。
気がつくとベッドの上の包みが消えていた。

バスタオルで身体を隠し、髪もバスタオルで巻いてキュートが出できた。
私が「俺のバスタオルが無くなったじゃないか」と言うと「ベッドに入るから電気を消して」とキュートが言った。
私は黙って明かりとテレビを消し、部屋を真っ暗にしてバスルームに入った。

シャワーを浴びドアを開けるとブランケットから顔だけ出してTVを見ていたキュートが少し湿ったバスタオルをドアに向って投げつけた。
私はそれを身体に巻き付け、キングサイズベッドの反対側の端に潜り込もうとしてブランケットを捲った。
すると、キュートの体温で温まったパフュームが鼻腔から私の体内に広がった。
それはブーゲンビリアの花の様な甘い香になっていた。

私はブランケットに潜り込みベットの中を泳ぎ彼女を抱きしめた。
水のシャワーで冷えていたのか、キュートの肌は少し冷たかった。

抱きしめられたキュートは「私は愛しているのに」と嗚咽をこらえて言った。
卑怯者の私は彼女の唇を塞ぎ、あとの言葉を遮った。



翌年キュートは大学を卒業しミンダナオはダバオの貿易会社に就職した。(彼の国では20歳か21歳で卒業になる)
彼女は新しい土地で始めた生活に忙しいのか私への連絡も少なくなり、やがてミンダナオへ尋ねて来いとも言わなくなっていた。

卑怯者の免税店の匂い・・・おしまい。




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タヌキの恩返し 続き

2016-04-06 20:59:00 | 盗作童話
気まぐれ子猫に滑り込んだ車の中で私は額か汗を流し混乱していた。
この状況はどう言う事なんだろうか? 
いわゆる、世間一般的な判断として、この手のホテルはそう言う事につながるモノだとの認識があった私は全身の血が脳天に上った感じで過熱し、汗が湯気となって蒸発した。
私は何か言わなくては、と思い口を開くのだったがからからに乾いた喉からは言葉にならない声が出るばかりで話にならなかった。
彼女が言った「もうお気づきとは思いますが、今貴方様はいつもの世界とは違う所にいるのです」「残念ですが残された時間も少ないのできちんとした説明は出来ませんが、夢の世界の中なのだと思って頂ければよろしいと思います」
私は今日一日のまったく常識はずれな展開を何一つ不思議だとも異常だとも思わずにいた訳であります。
そっかぁ~、そーだよなぁ、今日の一連の出来事はタヌキのお父さんの遺言からだものな、入り口からして夢でなくちゃ成り立たないよな、と、私は思いつつ、と、言う事は、俺は眠っているのか?だから自分がハンドルを切ってもいない車がホテルに入っちまったのか?と、言う事は、これは俺の願望なのか?妄想なのか?あぁ、嫌らしい妄想だ、たとえ相手はタヌキの娘とは言えこれはいけない妄想だ。
いや、こんな不健全な妄想は良く無い・・・そうだ、サイゼリアに行って夕食にしよう。
私は彼女に「あのぉ、お腹はすいていませんか?僕は腹ぺこなんですが、すぐ近くのファミレスで何か食べませんか?」と顔色を伺いなが言ってみた訳です。
彼女は少し間を置いてこう言いました「ですから、時間が無いのです。あなたには地図に書かれた祠へ行って宝物を手にして頂かなくてはならないのです。本当はこう言うとペナルティーなんですが言ってしまいましょう・・・あなたが本気で祠へ宝物を取りに行くと思って下さるだけで良いのです。念じて頂けば直ぐさまあなたは祠の前に立つ事になるのです」と、懇願するように言うのでありました。
少しですが気持ちが落ち着き、しかも今は夢の中なのだとからと、彼女に少し意地悪な質問をしたくなったのでぁります。
そして「私はこのホテルへ入るつもりなど全く無かったのに勝手に車が動いて来たのですが、それはあなたの意思だったのですか?」と尋ねた訳であります。
すると彼女は少し怒ったような顔をして「それは、私はあなたの心を読んだからでございます。あの時、あのカーブを曲がる手前であなたは、この先にあるホテルに知らん振りして入ったら私がどう思うかな?と、考えているのを知ったので、あぁ、あなたはそう言う事が望みなのだと察しての事でございます。私の意思では有りません」と言った。
それを聞いた私はもう一段と意地悪になり「それじゃぁ、そう言う事に成っても良いと思ったと理解して良いのですか?」と、少しねちっこい言葉で尋ねてみた訳です。
すると彼女はもう一段と怒った感じで「あなた、さっきからあれこれと私に聞きますけど、結局はそうしたいんでしょ、だったらさっさと行動に移しなさいよ」と、口調も言葉もうって変って乱暴に言ったのでありました。
すると、とてもUターンなど出来るはずの無い車線の道で車は難なく向きを変え、そして、瞬きする間にまた気まぐれ子猫に逆戻りしていたのであります。

さて、とうとう車を降りて歩き始めたのですが、このような場所は二人とも初めてなので勝手が分からない訳であります。
「ねぇ、あなたが決めたんですから、ちゃんとしてくれなくては困りますから」と彼女は言うのだけれども、出張で泊まるビジネスホテルくらいしか知らない私はまごついていたのでありました。
「あそこから入るんじゃない?どう見てもあそこしか無い感じですもの」と彼女に促され、一段明るい所を入ってゆくと、はたして、そこはいわゆるホテルのフロントのようでありました。
その時私は内心では「なんだよ、俺の心の内まで読んでいたのに、こんな事が分からないのかよ」と思った訳であります。
あっ、そうか、と閃いた私は彼女の顔を覗き込み「緊張してるの?」と訊いてみた訳であります。
すると少し呆れた感じの声で「バーカ」と大きな口を開けて言いました。
その時、彼女の歯が少し鋭い事に気がつき、ああ、そうだった、彼女はタヌキだったんだと思い出した次第であります。

入ってしまえばどうと言う事も無い普通よりは少し大きめなベッドが有り、何となく楽しい雰囲気の部屋でありました。
しかし、夢の中なのだからと大胆な言動と行動に出た私ではありましたが、しかし、たとえそれが夢と分かっていても、この期に及んで躊躇してしまうのであります。
私は部屋の中の扉を開けては「へぇ~お風呂だ、湯船おっきい」などとあらぬ事を口走っているのでありました。
「あっ、ビールがある。俺、飲もうっと。ねぇ、飲む?」と私が言うと、彼女は泣き出しそうな顔で「お願い、もう時間が無いの、助けると思ってた抜きの祠へ行く気になって下さい。そうしてもらわないと私、また落第なの」と言って、とうとう本当に泣き出してしまった。

つづく。
読みかえし無し、一気なので誤字脱字簡便です。



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タヌキの恩返し

2016-04-02 12:44:23 | 盗作童話
そうか、桜が咲いたか・・・。
あれはいつの年の四月だったか、定かには思い出せないが丁度今頃、梅の花が散って桜が咲き始めた頃だった。
いつもの通勤の道を車で走っていた朝、タヌキが道路に飛び出して軽く轢いちまった訳です。
急いでいたのですが怪我をしたタヌキを不憫に思い家に連れて帰り手当をし、後日回復したのを見計らいもとの場所に戻した訳です。

で、それから数年たった、やはり桜の頃でしたか、そんなタヌキの事など忘れてあの道を走っていると、美しい娘が立っていまして、私の車に飛び込むようにして道に出て来た訳です。
とは申しましても確実に止まれる間合いを計ったかのようで私しゃ難なく車を止められたんですが。
さて、まっ、相手は美しい娘とあれば元よりスケベな私でありますから、怒るなんて事は微塵も考えず、どーしました、大丈夫ですか?と、娘さんに駆け寄った訳です。
すると、娘さんは悲しげな顔をして・・・「父が、父が少し前に亡くなりまして、遺言を残しました。私はそれを貴方に伝えたくてここで待っておりました」と、言うのです。
へっ? 遺言を伝える為に私を待っていた、と? 意味が判らなかった私は「貴女のお父さんと私とはどのような関係なのでしょうか?」と尋ねた訳です。
すると娘さんは「父は、数年前にこの場所で車に轢かれたタヌキでございます」と言うではありませんか。
へっ?・・・タヌキ? と、言う事はこの娘もタヌキなの? と、私の頭は混乱しました。
私の狼狽える様子を見た、ほんとうはタヌキなんだけれども美しい娘は「驚かれるのも無理はございません。しかし生前の父は常日頃貴方様への恩義を語っていました。なので私も不慣れな術を使いこのような姿に化けてあなた様に会いに来たのでございます」と言った訳です。
更に続けて、本当はタヌキだけれども美しい娘は「つきましては父の遺言を貴方様に伝えますのでお聞きください」と、言いつつ一枚の紙切れを手渡した。
本当はタヌキなんだけれども美しい娘の言う事には、手渡された地図に従って行った処の祠にタヌキのお宝が隠してあるのでどうか受け取って欲しい、と言う事だった。
私は地図をみて驚いた・・・これは、私が良く行く権現森の地図じゃないか。
と、言う事は、この祠は松尾神社の事か? しかし、ここから権現森は近く無い・・・タヌキの足では歩けまいに、と、疑問は多かった。
私は幾つかの疑問を、本当はタヌキだけれども美しい娘に質そうと顔を上げた・・・すると、娘の姿は無く、一匹のタヌキが道の脇の土手を下って行く所だった。
それを見た私は、美しい娘に化けるタヌキはタヌキのままでも美しいタヌキなのだな、と、妙な事に感心しつつ、手に握った地図も柏の葉っぱかなにかに化けやしないかと見直した。
しかし、地図は葉っぱになる事は無く少し汗ばんだ私の手の中にあった訳です。
タヌキの恩返し、か・・・不思議な事ってあるものだなと思いつつも何処か信じられない自分が居て、夢じゃないの?と、疑う気持ちはありました。

取り敢えず仕事に向わなくてはならない私は地図の紙切れをポケットに押し込み車を走らせました。
どーも調子が良く無いようで車がギクシャクしておかしいのですが本当はタヌキだけれども美しい娘と時間を潰してしまい急がなくてはならず気にしつつも仕事先に向ったのでありました。
この時、車の調子の悪さもさることながら、なんだかいつもと道の様子が違う気がするんだが、しかし、そんな気がすると言う漠然としたものだったので、おかしいな、と思いながらも先を急いだのであります。

私はなんとか約束の時刻に間に合い無事に仕事を終え車に戻った訳であります、が、陽が長くなったとは言え既に辺りは暗くなっていました。
なんだか気持ちが疲れてしまったようで会社に戻ってもう一仕事する気にもなれず、もう一軒得意先を回って直帰しますと電話で上司に了解を得た次第であります。
しかし、どう言う訳か車は自宅へ戻る方向へ向いていたのであります。

家に帰る道すがらには権現森がある訳です。
郊外の田舎ゆえ街灯の少ない道は薄暗く、ヘッドライトの照らす範囲が見えるばかりでありました。
聴くとも無しに聞いていたラジオの野球中継が終わった頃、権現森の狭い急カーブに差し掛かり、対向車のライトの無い事を確認しつつ走っていました。

すると、カーブを曲がってライトに照らされた前方に人影が浮かび上がった訳であります。
このような民家も無い夜の山道で人の姿など見たら「出たぁ~」と騒いで走り去る私でありますが、この時は何故か恐怖心を抱くどころか、咄嗟にあれは本当はタヌキだけれども美しい娘だと確信したのでありました。
そして私は引き寄せられるように本当はタヌキだけれども美しい娘の脇に車を停めました。
「あれ、こんな所でどーしたんですか?」と言うと「伝え忘れた事がありましたのでお待ちしておりました」と、本当はタヌキだけれども美しい娘は答えました。
そして少しの間をおいて「寒い」と、呟いて小さく身震いしたのであります。
「ああ、今夜は花冷えだ、寒いですから車にどうぞ」と、私は、本当はタヌキだけれども美しい娘を誘った訳であります。
本当はタヌキだけれども美しい娘は少し躊躇った様子を見せつつも車に乗り込んだのでした。

権現森の下の山道を通る車は少ないけれども、道幅は狭くいつまでも停まっているわけにはいかなのであります。
程なくして一つ後のカーブを曲がる車のライトがルームミラーの隅に光りました。
それにつられ私は無意識に車を走らせたものの、この先どうして良いのか分からなかった訳ですが、何故だか気持ちの端っこが喜んでいたのであります。
車内には沈黙とともに今までかつて経験した事の無い良い香が漂っていました。
私は少しぼうっとしつつも、これは、本当はタヌキだけれども美しい娘の芳しい香である事を感じていた次第であります。

権現森の山道は5分もあれば抜けて落合の国道に出るのであります。
ですが、本当はタヌキだけれども美しい娘を乗せた車は随分と走ったような気がするのにカーブを曲がるとまた権現森に戻ってしまうのでありました。
しかし、そんな事を不思議だとも思わず、いつしか私は、このままの時間がずっと続けば良いと思いつつハンドルを握っていたのでありました。

何度も同じカーブを曲がった後、本当はタヌキだけれども美しい娘が言い憎そうな感じで口を開いた訳です。
「あのぉ~・・・昼間の地図の祠にはもう行かれましたか?」と言いつつ「こうして居ると言う事は未だなのですね」と言ったのであります。
私は、どう言う意味なんだろう?と、分かりかね、正直に「どう言うことですか?」と問うたのであります。
「そうですかぁ~・・・私の誘い方が悪かったせいで貴方様の心は祠に向わなかったのですね」と、悲しそうに言いました。
「そうですかぁ~・・・今10時15分ですね、あと1時間45分以内に宝物を受け取って頂かないと貴方様が大変な事になってしまうのです。こんな時刻ですけれども、あの祠に行って頂きたいのですが」と、本当はタヌキだけれども美しい娘は少し切羽詰まった面持ちで訴えるように語ったのでありました。
「いやぁ、こんな夜更けに山に登のぉ? ナンボ権現森は里山だって、松尾神社までは1時間かかるんですよ」と私が言うと、本当はタヌキだけれども美しい娘は「ですから、時間が無いから急いでいるのです。お願いですから一言、行くと言って下さい」と、殆ど懇願する様子で言うのでありました。
「明日じゃ駄目なのぉ~・・・もし良かったら明日、一緒に行きませんか?」と、普段なら女性を相手に冗談の一つも言えない私が誘いの言葉を口にしたのは、相手が、美しい娘とは言え本当はタヌキだと思ったからでありましょうか?
しかし、その時、本当はタヌキだけれども美しい娘は、私の中では既にタヌキの文字が消え一人の美しい娘になっていたのでありました。

「時間が無いって、どう言う事ですか? もしよろしかったら明日、あそこへ迎えに行きますよ」と私が言うと、本当はタヌキだけれども美しい娘改め彼女は「いいえ、駄目なのです。貴方様に残された時間はもう1時間と少ししか無いのです。一言、祠へ行くと言ってくれれば・・・貴方様が行く意思を見せて下さるだけで良いのです」と彼女は目に涙さえ浮かべ懇願するのでありました。

私は訳が分からないままではありましたが、いつしか不思議な事だらけで辻褄の合わない状況が楽しく思えていました。
そして、どこか頭の隅に、これは現実では無いんだ、お前は夢の中なんだよ、と言う自分が居て、だったら楽しんじゃえよ、と言う囁きが聞こえたのであります。

「あのぉ・・・昼間会った時にお父さんの話しをしてましたよね。で、貴女もタヌキだと」「そして、お父さんが私に恩義を感じて宝物をくれるって事でした」「で、今の話しは、それを取りに祠に行こうと言う事ですよね、しかもこんな夜更けに」「私、タヌキの宝物に興味が無くも無いんですけれども、もっと興味が湧いたのは貴女なんです」「え~と、宝物のチェンジって駄目でしょうか?」「もし良かったら今夜一緒に過ごしてもらうと言うのは無理でしょうか?」「いやいや、そう言う邪な気持ちは少しも無いとは言いませんが、これから食事をして、少しお話をして、って、それくらいの事で十分なんです」「駄目でしょうか? まっ、駄目でしょう・・・ね」と私が言うと、彼女は今まで見せていた硬い表情を捨て「そうですね、最後の夢ですものね」と笑みを浮かべて言った。
そして不思議な事に私がハンドルを切っている訳でもないのに車は走り、権現森から国道に出る交差点にある「気まぐれ子猫」と言う名のホテルに滑り込んだ。

ふう~・・・続きはまた考えますんで、今日はここまで。



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