運の無い男がいた。
その名は吾作。
吾作は下野の在の生まれだったが故郷を追われた博打打ちの父ちゃんに手を引かれ七つの頃に江戸に出てきた。
そんなだからガキの頃から駄賃仕事に忙しく寺子屋も行けず読み書きそろばんはできなかった。
それでも吾作は下働きから叩き上げ、いつしか材木を刻ませたら寸分違わず尺を取る一端の大工になっていた。
先月の棟上げ式の時、酒が入って調子に乗った吾作は屋根の上で足を滑らせ叩き落ちた。
不幸中の幸いで命は何ともなかったが骨を傷めてしばらく仕事ができなくなった。
長屋ではこれが本当の骨休めだと笑い話になっていたが吾作にとっては一大事だ。
多少の蓄えで当面の家賃や食い扶持に事欠くことはなかったが次に控えていた大きな仕事をふいにしたのを悔やんでいた。
吾作の失敗は大概が酒であった。
屋根から落ちたのもそうだったがそれ以前にも酔って堀にはまって死にかけたり、いつぞやは酔い覚ましに水を飲もうと井戸を覗き込み叩き落ちたこともあった。
その度に悔いるのだったがまるで疫病神でも憑いているかのように災難は回ってきた。
吾作はその夜も手製の松葉杖を支えに長屋の先の川端の太鼓橋の角に立つ屋台の蕎麦屋に来ていた。
屋台は平素からさほどの人数はいないのだがこの夜は吾作一人だった。
なのでいつも座る柳の下の縁台で呑まず軒下に身を置いた。
豆に来ていて顔見知りではあったがおやじと向き合っても吾作に話すことは無かった。
「冷」と言う吾作の声を切っ掛けにおやじが口を開きぼそっと「棟梁は運がいいやね」と言った。
その声にむっとした吾作は「俺のどこが運が良いってか」と吐き捨てるように言い返した。
するとおやじは「棟梁の肩には福の神が居なさるんだからそりゃぁ幸運にきまってますがね」と吾作の顔を覗き込むようにして言った。
いよいよ腹のたった吾作は「この怪我した姿が見えねぇのかトンチキめ」と両の肩を手で払い「ここにしがみ付いているのは疫病神に決まってるだろうが」と声を荒げた。
すると蕎麦屋の親父は何かが取り付いたように突然形相を変え「そうまで言うんなら俺とあんたの間もおしまいだ、いままで死神が取り付きそうになるたびに追い払ってやったのに、次は死ぬよ」と、ニタリと笑いながら言った。
なんちゃって、似たような話が多いパクリでした、と。