まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

石井秀夫氏の”街づくりと景観デザインの日英比較”

2022-02-04 19:39:03 | 建築・都市・あれこれ  Essay

石井秀夫2010「街づくりと景観デザインの日英比較 ー街づくり担当者にインタヴューしてー」『帝京社会学23号』のWEB版(20220204アクセス)が面白い。

最近読んでもすぐに忘れる。備忘のためにメモを残したい。

第一部英国の街づくりと日本の街づくり

1はじめに

大変分かり易い入り方。「英国に限らずヨーロッパの街並みは、見るものを感動させる。歴史的な景観の保存、まち並の統一感、歩きやすくコンパクトな中心市街地、郊外の開放感、走りやすい道路、整備された駐車場、自動車交通の普及などなど、街のあり方は、日本のまち並とは大いに異なった様相を見せている」(p47)。

「街や景観には、特定の所有者はいない。・・みんなのものpublicである公共の空間がどのような考え方と手続きに基づいてつくられ、維持されているのか」というのが石井先生の研究の視座。

英国側の都市としてはDurham、Gateshead、Hartlepool。前の二つの都市には行ったことがあるのもわたしにとっては好都合。

日本の都市の記述もものすごく分かり易い。「建物の色、素材、高さ、形状などどれをとっても統一感に欠ける街並みを見て・・・」「郊外に目を転じても、住宅、工場、倉庫、野立て看板などが延々と続き、緑豊かな田園が虫食い状に開発され、のどかな農村風景はいつしか失われ、郊外に広がる優良農地は次々に宅地化され、農村経済を破壊している。都市のスプロール化は、食料自給率が40パーセントを切る時代に尿業の衰退を加速させている。農村においても・・・里山は荒れ、伝統的農村景観も失われつつある」

その通りです。さらに石井先生はわかりやすい言葉で記述していく。

「このような風景は美観の観点からだけではなく、都市機能の観点からも問題・・・」(p48)。「徒歩圏内に必要な都市機能をそろえたコンパクトシティの考え方は、高齢化社会を迎えてますますその重要性を増す・・・」。ここで石井先生は自説を加える。「郊外の自動車交通圏と街なかの歩行者圏とを分離」すべきだということ。交通事故と排気ガスの観点だけでなく、非効率的。

以上のような描写のあとで先生の問題意識が列挙される。「自転車と徒歩で移動できるサイズの街づくり、コミュニティの復活、中心商業地域の活性化、犯罪防止、エネルギー消費の少ない街」が課題としてあげられる。

 

2英国の都市計画の概要

続いて英国の制度、方法の紹介。

英国ではスーパーマーケットの大きさや駐車場の数など様々な点で中央政府が基本方針を示す(p49)。具体の問題は自治体に権限。

⇔日本では細かな規制を中央政府が行い、司令塔がないことを指摘。

英国の都市計画の基本方針はPlanning Policy Statement中央政府の方針表明(今はPlanning Policy Guidanceに代わっているようだ。(TAK)).

「・・・いいプランニングはしかるべき場所と時期に正しい発展をもたらす。それは、自然及び歴史的環境の保護と増進、および・・・カントリーサイドとオープンスペースを保全しながら、人々の生活に肯定的な変化をもたらし、住宅、仕事、より良い機会をすべての人に提供する・・・」

中央政府の理念を受けて地域ごとにRegional Spatial Straregyが作成される。具体的には自治体がデベロップメントプラン。次の内容が明記されているそうだ。

①予定新規住宅戸数

②グリーンベルト、自然環境の保全

➂農村経済

④都市経済、大規模工場、事業所、店舗などの雇用創出

⑤交通、道路

⑥鉱物資源、採掘事業

⑦廃棄物処理

⑧観光、レジャー、レクレーション

⑨エネルギー消費とその循環

 

これに基づいた規制が行われる。その特徴が次の通り。

日本のように用途地域と建築基準法のような外形的規制ではなく、景観のような主観的なもの、環境変化や周りへ影響などが個別審査。planning permissionを与えるのがcity planner,town planner。具体的基準は裁量による。

このあたりのことは長島孝一さんがお書きになった「オリンピックを機に”建築・まちづくり”の法制仕組みかいかくを」(都市住宅学87号、2014)に詳しい。

3合意形成

Inspector政府の調査官が裁定。裁量と交渉の世界。

 

4グリーンベルトの保全

グリーンベルトによって街と郊外をはっきりと区分している。

 

5総合的視点の欠如

まずは日本の話。日本の場合は理念のない開発と緩い建築規制。しかも中央政府の基準は画一的で細かい。

英国は国が基本方針をだす。ダーラムだと歴史景観を生かした街づくりをするように指針を示している。北東イングランド地方政府がそれに従って街づくりの基本方針を出す。ダーラム市はその方針に沿って街づくりを進める。文化遺産の保護はきつい縛りとしてダーラム市が守るべきこととなっている。

翻って再び日本では・・・。この比較が興味深い。

安曇野。水田の真ん中に広域農道ができてそこにガソリンスタンドやコンビニ。北アルプスの稜線が見える一級の景観が台無し。今や倉庫や工場が並ぶ平凡な産業都市になってしまった。日本では経済活性化という目標の下で地域独自の特徴をなくしてきた。

英国には先ほど言った縛りがあるので、こんな素晴らしい景観を無視した開発はできない。この違い!

また中央と地方の役割分担が明確でないこともいろいろ悪影響。例えば道路、上下水道、学校、コミュニティ施設、レクレーション施設、歴史遺産、ランドマークなどを総合的、一体的に整備できない。なぜなら縦割り。

中央と地方の役割分担をはっきりさせて、「権限を住民の生活の質の向上と景観の保全を目標に統合する必要」(p57)。

6コンセンサスを得る方法の欠如

公共はpublicでありofficialではない。publicはpeopleと同じ語源。

ここでも、長島孝一さんの前掲書を思い出す。独立した個人がたくさん集まって、Publicをつくている。両者は離れているものではない。たくさんの個人の集合の一側面を表すのがPublicという言葉、というようなことを書いておられた。

7紛争処理システム

英国では初めから反対意見の存在を前提。

 

8街の拡大とコンパクトシティ

多摩センターや筑波学園都市にも車を必要としない暮らしやすい街をつくるという発想がない。碁盤状道路ネットワーク。問題が多いとの指摘!

まずはここまで。

9犯罪防止、交通事故防止、エネルギー節約

日本では「「注意一秒けが一生」「そのスピードが死をまねく」のように運転者の自覚に訴える」のだが、英国では道路の設計と交通の問題が一体となって様々な空が行われているという。

「まち」と「郊外」では道路や交通に対する考え方を切り分けているようである。

石井先生の引用から外れるが、日本ではまちの中で歩行者が車にはねられたりする事故が多いが、英国やドイツなどではまちで歩行者が死亡することはまれだと聞く。十分な対策を行うからだろう。その代り郊外では高速走行することが原因での事故はあるという。まちと郊外をきちんと分ける文化とそうでない文化の違いだろう。

 

10 駐車場整備

行政が必要なところにきちんと駐車場を整備する必要性が述べられている。

 

11 コミュニティづくり

英国の街づくりの考え方の基本には、コミュニティの重要性。日本との差。

 

12 観光立国ランドマーク、歴史的街並み保存

「小田原城より高いマンション、海の見えない熱海、古都京都駅前の展望タワー、歴史を刻んだ日本橋の上の高速道路などなど、英国では考えられない街づくりである。日本において
も個々の建築物のみならず、街全体をひとつの文化遺産として考えるときがきているのではなかろうか」。本当にその通り。

 

13 土地本位制と開発利益の私物化

この章も引用だけになる。「不動産価格が実勢価格に近づいたいまこそ、土地所有の観念を考え直すときであろう。土地は誰のものか。都市は誰のものか。景観は誰のものか。街並は誰のものか。これらのものの公共的側面を見直さない限り、街づくりの閉塞状況を抜け出すことはできない」

 

14 英国のまちづくりの問題点

「英国の街づくりが機能するためには、個人が街に合わせた住み方をしなければならない」という現実もあるようだ。

 

15 日本文化と街づくり

「日本の文化は、人間中心に自然を支配してきた欧米の文化とは、基本的な部分が違っているように思われる。日本の都市の無計画さは、日本人の適応力の大きさと柔軟性ゆえかもしれない」家に対する愛着違いや自然に対する態度の違いが述べられる。私には若干ステレオタイプな議論に思える。違和感が残る。

 

16 まとめ

「統一感のない街並み、締まりなく広がる都市、虫食い状態に侵食される農地、どこまでも信号と渋滞が続く道路、住宅地にまで入り込む通過交通、災害時に救援の障害となる電柱、空を覆い尽くす電線など、日本の公共空間において解決すべき問題は多い。しかしながら、これらの問題には、土地所有権、税制、司法、行政組織、国と地方の権限、さらには日本文化にまでさかのぼらなければ解明できないさまざまな問題がかかわっている。街づくりは、まことに複雑かつ困難な問題である」うーん折角の鋭い舌鋒が・・・・・。

 

この後の英日のまちづくり・景観デザイン担当者へのインタヴューも大変示唆に富みます。

 

高谷時彦

Tokihiko Takatani   architect/urban designer

 

 

 

 

 

 

 

 


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