まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

Topic 1  都市デザインを考える

2024-08-07 00:01:59 | 建築・都市・あれこれ  Essay

 私の関心は、東京や地方都市において都市デザインがどういう役割を果たしうるのか、役割を果たすためには何をどういう視点からなせばよいのか・・・というところにあります。最終的にそこまで到達できればいいのですが、ここでは日々の活動の中で都市デザインについて感じたことをトピックとして記録するところから始めようと思います。まずは、都市デザインを私がどうとらえているのか、そのあたりを整理したいと思います。

 

都市環境について

 私たちが毎日暮らしている環境は、住宅や学校、オフィスなどの建築や、道路、橋、公園などからできています。ここでは都市環境と呼びます。「都市」ということばから、農村部が入っていないような印象がありますが、私たちが集まって暮らしていく環境を総体として都市環境と呼びたいと思います。ビルトエンバイロンメント(Built Environmennt)という言葉もありますが、うまい訳語がありません。

 私たちが暮らす環境は、社会的あるいは経済的、心理的、精神的な環境としても、とらえることができますが、私たちが都市環境といった場合には、自然を基盤に人間の手によって作り上げられてきた、物的な、フィジカルな側面に注目します。

 私たちの都市環境は自然や風土のもとで人々の物的あるいは精神的ないとなみが長い時間をかけて作り上げたものです。文明的あるいは文化的所産です。そういった都市環境のなかで私たちは育ち、くらし、様々な経験をします。時間とともに、都市環境は、様々な意味や物語に満ち、複雑な文脈をもつ世界となります。その環境とのかかわりの中で、私たちは自分というものを形成し、自分が誰であるのかということを確かめます。「ここはどこ?」という問いは、都市環境の中で自分がどこにいるのかということですが、それは「私は誰?」という問いにほぼ等しいと思います。私たちは、歴史的、文化的、また風土的存在である都市環境との関係の中で生きており、自分を定位しているのです。

都市デザインとは

 都市環境は、住宅のスケールから、町内を超えて町や村にまでつながります。またさらに、都市群や地方、国という単位にまで広がります。私たちが、都市デザインという言葉で対象としているのは住宅から行政単位でいう市や町、村の広がりです。

 このスケールでの都市環境を、人間らしく安心して人が住み、働き、遊び、暮らすことのできる快適で、機能的、個性的、そして美しいものにしていこうという活動が都市デザインということになります。あるいは都市環境の中心に人間を据え、歴史、文化をふまえた存在として捉え、人々が誇りに思えるような環境を作っていくこと、建築や道路、広場、公園、そして自然的環境を、快適に誇りをもって暮らせるものに近づけていくことが都市デザインともいえるでしょう。

 住宅や個々の建築のスケールでは建築設計、また道路や橋などは土木設計、公園は造園、照明は照明設計など個別分野にはそれぞれ専門がありますが、そういう要素をうまく総合化していくというのも都市デザインの役割です。

 都市環境を扱う分野には都市計画があります。都市を計画するという行為は、都市というものが発生したメソポタミヤ文明や殷の時代からあるわけです。同様に都市デザインもその時からあるはずです。都市計画や、都市デザインを広義にとらえればその境界は限りなくあいまいになります。

 一方で、狭い意味での都市計画というのは、19世紀半ばにイギリスで生まれた近代都市計画を指します。現代においては行政が、都市計画法などの法律に基づいて行うものです。都市の目標像、マスタープランを提示し、その目標に向けての法定の都市計画を定めます。

 また狭義の都市デザインは、後ほど説明するように、20世紀半ばにアメリカを中心に生まれ現代に続く都市デザインを意味します。このエッセイの中では基本的に狭義の都市計画、都市デザインを対象とします。   

都市デザインの誕生

 19世紀半ばに生まれた近代都市計画や20世紀初頭から並走するモダニズム建築や都市思想は、19世紀末から20世紀にかけて、過密と非衛生的な環境に苦しむ大都市問題の解決の中から生まれました。衛生思想や労働者の劣悪な環境を救う理想都市的な思想の影響もあったはずですが、都市環境が歴史的、文化的また風土的存在であるということをひとまず棚上げして、インタ-ナショナルで機能優先の都市空間づくりに励んできました。その結果が均質で味わい深さに欠けるまちを生みました。その反省のもとに、都市環境に再び人間を置き、歴史的文化的また風土的存在としての都市環境を個性的魅力のあるもの、誇りをもって生きるためのよりどころにする活動が20世紀後半からの都市デザインだったというのが私の理解です。

 都市デザインが扱うべき課題や目標、手法は地域、時代によって様々です。しかし、人間を中心に据えるということと、歴史、文化、風土的存在として都市環境をとらえるという態度は根底にあり、変わらないものだと思います。

 したがって都市デザインは、その場所における時間の流れや、文化の繋がり、そして風土が積み重ねてきている文脈を注意深く読み取るところから出発します。もちろん既存の文脈にばかりに目を捕らわれると単なる保守主義になってしまいますが、それを十分咀嚼したうえでそっと丁寧に新しいものをつけ加えていくという態度です。

建築デザインへのかかわり

 都市デザインには多様な主体が関係します。私は、建築の設計を専門としていますが、ひとつの敷地内で建築をつくる場合にも、常に都市環境の中の一要素をつくるという意識で取り組んでいます。都市というスケールで見ると、建築の新築は、都市環境の一部修復なのです。

 また、私たち建築設計に携わるものが提案できるのはフィジカルな側面です。住宅づくりで例えるとハウスということになります。しかし、ハウスをつくることが最終目的ではありません。人が住み、くらしが積み重ねられることで、ハウスはホームとなっていきます。槇文彦氏は、建築家は空間をつくって終わりではない、ユーザーがその空間をアクティヴイトすることを通して、その人にとっての場所となることで、設計は完成する。したがってそこまで関わる、あるいはそこまで考えるのが建築家だということをおっしゃっておられます。私たちも、都市環境をデザインするときには、それが使われて大切な場所や思い出の風景となっていくことを想像しながら設計を進めていくことが必要なのです。

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

 

 

 



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