クラスに勉強が苦手な男の子がいます。
勉強全般に関して意欲にもムラがあるし,理解力も低い。
理解ができないから,また授業へのテンションが下がる。
そして勉強が遅れた分,次の勉強にも支障をきたす。
この悪循環です。
一般的に勉強が苦手な子はこのサイクルをたどることが多いですよね。
どこかでこの悪循環を断ち切ってあげるべく,どこかにメスを入れて,何とか抜けださせてあげようとがんばる先生。
もちろん本人も早く抜け出したくて,努力をします。
…が,その努力も,必ずしも長続きして実を結ぶというわけでもなく。
この子も,6年生の今年に限らず,過去の学年までもそうして苦しんできた子の中の一人です。
勉強をしていない時間は,とても人懐っこくて,少し幼い感じがして,だけどふとしたときに気が利いて,また独特なユーモアもあり,人に好かれています。
私も,正直学習指導に手は焼くけれども,毎日からかってはかわいがっています。
そんな私に好意を抱いてくれているのか,休み時間はよく私のそばにいて,他愛もない話をしてくれます。
昼休みにも遊びに誘ってくれます。
ときどき,あまりにもくっつきすぎるものだから
「ちょっと,暑苦しい!あっち行け!」
と突き飛ばします。(笑)
そんな,クラスの中でもかけがえのない存在のこの子。
授業中には暗い顔をしていることが多いのですが,最近,明るい生き生きとした表情をよく見るようになりました。
はて…
勉強が分かるようになったのだろうか?
テストの点は… ありゃりゃ 相変わらずじゃないか。
じゃあ,前と何が変わったんだ?
答えは,その子がいつも私にしてくれる話や,個人的に提出しているノートの中にありました。
この子は最近,自分なりの,自分だけの勉強をするようになりました。
歴史が大好きで,ありとあらゆる歴史上の人物や出来事を,家で得意のインターネットで詳しく調べては,下手ですがノートにまとめて,私に見せたり,得意気に話をしたりしてくれるようになりました。
はっきり言って,この子が調べてくるところは,小学校レベルの教科書には全く取り扱われないほどマイナーなものも多いのですが,(真田幸村… 寺田屋事件… 真珠湾攻撃… ジャンルはバラバラ)そんなこと構わずこの子はどんどん調べてきます。
でも,この子の中じゃ,歴史の授業をしている中で,自分が調べたこととなんとなくリンクするものがあるんでしょう。
ときどき「あぁ,そういうことか」のように独り言を言っています。
このブログでも何度か書きましたが,私が歴史好き(特に坂本龍馬)なもので,この子が調べてくることに私も個人的に興味があり,休み時間に二人でマイナーな話で盛り上がることもあります。
それが,またこの子にはうれしいのでしょう。
歴史だけでなく,算数でも表情が明るくなりました。
こちらも成績は相変わらずなのですが,なぜか,この子は「予習」をしてくるようになったのです。
なぜか,なんて言うと失礼ですね。
「予習」という学習の仕方があることは子どもたちに話をしているので,この子もそれを実践しているということでしょう。
始めは驚きましたが,この「予習」に,学力の低い子が手応えを感じているようです。
授業にいつも遅れをとるのが当たり前だったので,少しでも授業の先を行っているという感触が,うれしいのでしょうか。
ただ,さすがに教科書をまんべんなく予習して,必要事項を全て抑えてくるなんてことはできていません。
予習している範囲はごく一部です。
その一部も,予習段階で理解できているかどうかはあやしいです。
しかし,確実に授業より先に教科書を見て,ノートにちょこっと写してきていて,その「ちょこっと」が,授業の中で出てくる瞬間を楽しんでいるようにも見えます。
こんな自主的な学習を,私が勧めたわけでも強制したわけでもないのに,この子が自分であみだして実行,継続している点には驚かされましたし,高く評価しているところです。
自分で,学習に関して生きる道を作りだした。
そんな感じです。
なるほど,この子を見てて学びました。
広く浅く学習することが難しい子でも,狭く深く学習するという方法が向いている場合がある!
小学校の学習は基本的に「広く浅く」です。
勉強が苦手な子は,これが苦痛なわけですが,自分の関心に沿った狭い部分を,どんどん掘り下げていくという学習は,結構できる場合があるということです。
もちろん,今後もそんな学習だけしておけばいいというわけではありませんが,そこに学習の楽しさや喜び,自己肯定感を感じることができるならば,ぜひそうさせてあげたいと思います。
勉強が苦手な子を救う,一つの方法かと思いました。